俺が求めてるのはお前との恋じゃない


荒北かららしからぬ“忠告”を受けたが、結局その後黒田に会うことはなかった。毎日呼んでなくても来るくせに、今日に限ってそんな珍しいことしやがって。タイミング悪すぎ。

部屋に帰ってきたのはいいものの、課題もないし予定も入ってないのですぐにベッドに寝転がった。何の気なしにケータイを開くと、新着メールを知らせるアイコンが出ている。新着メール二件。一つは桜ちゃんと、

「……げっ、黒田」

噂をすればってやつか。最悪。絶対長い。まあ見なくても支障はないだろうから後回しにするとして、桜ちゃんからは……へー、今日黒田と話す機会があったらしい。よかったねえと返事を打つ。いいよなあ、話せただけでも報告したくなるくらい嬉しいんだなあ。恋してるって感じ。非常に羨ましい。もうほんとそんな気持ちとはかけ離れてしまってる生活を送ってるからな。黒田はまあ置いといて、それでなくても俺結構モテるんだけど、それが恋愛だとかに発展することがなくて困る。一方的に好かれるんじゃなくて俺もちゃんと好きになって付き合いたいんだよねー。まあ高校入ってからは付き合えるならいいやって考えになっちまったけど。誰でもいいとかすっかり腐っちまったな俺。あの頃の純粋な気持ちはいずこへ。

とりあえず返信済んだしちょっと寝るかなあ、でも一回寝たら止まんなくなりそうだなあなんて考えてたら、ケータイが震えだした。今度は着信だ。知らない番号。桜ちゃんか。なんだ、他に直接声に出してまで伝えたい出来事でもあったのか。

「はーいーみょうじですよー」
『みょうじさんメール見てくれました?』
「……すいません間違い電話です」
『さっきみょうじですよっつってたでしょ』

し く っ た 。そうだそういえばこいつ俺の電話番号も知ってるとか言ってたわすっかり忘れてた完全に俺の不注意だほんと最悪。けどこれ、チャンスなんじゃないか?何の用なのかは知らねえけどふわふわ聞き流しといて最後にサヨナラバイバイ宣告すればいいじゃんこれ。そもそも今日伝えようとか思ってたし。早ければ早い方がいいし。電話なら言いやすいし。

『え、黙ってる。やめてくださいよ切らないでくださいよ!』
「いや別に切らねーよ…で?用件は?」
『メール見てくれました?』
「まだ見てねえ」
『今日会えなくて寂しかった俺の気持ちを綴りました』
「わかった未読のまま削除しとくわ。つかお前部活は?」
『もうすぐ行きます。今ロッカールームなんで』
「ええええええ何してんだよさっさと行けよ…」
『だから言ったでしょ、今日会えなくて寂しかったって』
「一日会えなかったくらいでなに言ってんだよ。そんなんじゃ俺が卒業とかしたらお前死ぬんじゃねーの?」
『大丈夫です。その頃には付き合ってますから』

さらっとなに言ってやがんだこいつ…一回でいいからあの頭かち割って中身見てみたいくらいには思考回路が読めない。なんでそんな自信満々に言えるのかがわかんねえ。この数ヵ月の俺の対応からなぜその答えが導き出されるのか。思わせ振りな態度とってたならまだわかるけどそんなのしてないしむしろ引きまくってたのにどうなってんだほんと。

わざとらしく大きなため息を吐くと、くすくすと笑い声が聞こえた。

「……なに笑ってんのお前」
『いや、嬉しくて』
「は?」
『好きなんです、みょうじさんの声』
「!」
『ずっと聞いてたい』

なんだその声。お前それ、どんな顔して言ってんの。

『……なんか喋ってくださいよ』
「……キモいから嫌」
『別にキモくないでしょ』
「キモい」
『声だけじゃないですよ』
「うるさい」
『全部好きです』
「うるさいって」
『みょうじさんのこと。全部好きです。全部全部、好きなんです、本当に』
「…………」
『好きすぎて、俺、もう…』

気付いたら電話を切ってそのまま放り投げていた。キモいキモいキモい。マジでねえから。俺もお前も男だから。そんな女の子口説くみてえな声で喋ってんじゃねーよほんとキモいなあいつ。鳥肌立ってる。

「……ほんと、なんで俺なんだよ。バカじゃねーの…」

あ、しまった。話すんの忘れてた。




160208