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「それで、またフラれってわけか」
「ふふふふフラれたってなんだヨ!!断られただけだっつーの!!」
「それがフラれたということではないのか?」
「オメーは黙ってろデコカチューシャ!」
「なんだその美的センスの欠片もない名前は!!」
いつものチャリ部3年グループで昼食中。ああそうだよ今日もさらっと断られたよそれがどうした悪ィかよ!仕方ねえだろあいつモテんだから!
今日も今日とていつものように「ごめんなさい!」の紙を見せられた。けど、そのあと訂正するように「ごめんね」と書かれたメモが返ってきたのを見て、敬語の件ちゃんと覚えててくれたんだと驚いた。それに、わざわざ訂正するところが律儀だなと笑ってしまった。
あいつ、実は結構面白いとこあんだよなァ。関わる前はただのビビりチャンだと思ってなのに、それだけじゃなかった。友達思いなとことか、ちょっと抜けてるとことか、あの図体のくせして結構可愛いとこ…
「みょうじは女子とも関われるようになったのか」
「女子とも?」
「そうだなあ。まさか靖友ともそこまで仲良くなるとは思わなかったし、あいつも成長したよな」
「いったい誰なんだ、よく聞くそのみょうじという男は!俺も会ってみたいぞ!」
「尽八なら靖友よりも早く仲良くなれるんじゃねえか?なあ靖友」
……いま、なに考えてた俺。可愛い?あいつが?あの無口ででっけえビビり男のみょうじが?可愛い?
「…靖友?聞いてる?」
「はあっ!?なんでだヨ意味わかんねえ!!」
「へ?」
「なにがわからんのだ!俺が彼と仲良くなることか!?」
「ちっげーよそんなもんこれっぽっちも興味ねーよバァカ!!」
「なんだと!?」
「じゃあ何がわからないんだ?考え事してたみてえだけど」
「なにっ、て、別に、なんも考えてねえけど…」
さっきの意味わかんねえ考えを消し去るようにメロンパンにかじりついた。そうだよ気のせいだよ。どうかしてた。忘れよう。
気を紛らせようと、中庭がよく見える窓を見つめた。福チャンはともかく新開にだけは変に悟られたくねえ。なんにも知らねえ東堂は適当に流して…あ、
(みょうじだ)
よく見る困惑したような顔を浮かべて歩いているみょうじがいた。それだけならなにも思わなかったのに、どこか様子がおかしかった。誰かに手を引かれてる。あの化粧の濃い黒髪ロン毛、最近よくみょうじと昼飯一緒に食ってる女だ。二人してどこ行くんだ?とても今からご飯ですって顔してなかったぞ、みょうじのやつ。
二人はすっかり見えなくなってしまったが、なんだか妙にモヤモヤした。
「………どうした、荒北」
「…悪ィ、ちょっと用事思い出した」
俺の異変にいち早く気付いた福チャンにそう告げて席を立った。なんだこの胸騒ぎは。見慣れたはずの顔だったのに、なんか、いつもと違う気がした。
食堂から直接中庭に出て辺りを見回しても、もういない。どこ行ったんだあいつら。自然と足取りが早くなる。早く、早く見つけねえと。どこにいるんだみょうじ。
「くそっ……みょうじ!!」
気付いたら叫んでた。どうしてこんなに気になるんだ。見つけてどうするんだ。
「いっ、」
「ごめんなさい…!」
校舎裏の曲がり角で誰かとぶつかった。相手は小さな声でそう言って走り去ってしまった。一瞬だけ見えた長い黒髪。それにまたモヤッとして、すぐピンときた。この先だ。
「おいみょうじ、」
曲がり角を曲がってそのまま叫んだ。そこにはやっぱりみょうじがいて、けど、続く言葉が出なかった。長い体を折り畳むようにしてしゃがみ込んでいたから。
俺の声に反応してそろりと上げられた顔は、涙で濡れていた。
「……お前…!」
「……ぁ…」
「んだヨその顔…あの女かァ!?なに言われた!!」
すぐにそばまで駆け寄って尋ねた。今まで目に涙をためてるところを見たことはあっても、実際に泣いてるところをみたことはなかった。しかも状況が状況だ。ちょっとビビって半泣きなんてのはよく見てるけど、どう見ても様子がおかしい。いつも以上にガタガタビクビク震えてやがる。なに言われたんだ。なにされたんだ。聞いても答えは返ってこない。
ただでさえ初めて見るその姿にイライラしてんのに、近くで顔を見た時、気付いちまった。唇の端に、ピンク。乱暴に擦った跡があった。
「…あの女に襲われたのォ…?」
「っ!」
体が大きく震えた。正解だ。その瞬間、自分でもビックリするぐらい頭が熱くなった。頭が真っ白になるって、ぶちギレるってこういうことなんだろうなってぼんやり思った。
(あんの、アバズレ女…!!)
すぐに取っ捕まえてやろうと立ち上がったけど、すごい力で引き留められた。なんだこれ、前にもあった気がする。
「っ、なんで止めんだヨ!!オメー怖かったんだろ!?だからそんな震えて、」
「…ひっ…う…!」
「……一人にすんなってかァ…」
俺の腕をぎゅっと掴む手も、可哀想なくらい震えてやがった。ぽろぽろぽろぽろ。行かないでって言ってるみてえに、どんどん涙がこぼれていく。たしかにこのままこいつのこと一人にしとけねえか。
「……怖かったか?」
「……ん…っ」
「…だよなァ…泣いちまえヨ、俺しかいねえから」
ストンと隣に座って、背中を擦ってやった。震えは収まってきてるけど、涙が止まりそうにない。このまま次の授業はサボっちまうか。
前までならきっと、男がそれぐらいで泣いてんじゃねえっつってこいつにキレてたと思う。なのにどうしてこんな慰めてんだろうな。どうしてこんな焦ってんだろうな。どうしてこんな怒ってんだろうな。ほとんど真逆のことしてる。
『なーんか守りたくなるだろ、なまえって』
あいつの言ってたことが、少しだけわかった気がした。
(俺よりもでけえくせに、俺よりも弱ェこいつを、)
160114
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