無口 | ナノ


その日は少し作戦を変えてみた。昨日までの優しい俺アピール作戦は一旦中止して、しばらくあいつの様子を観察することにした。翌々考えればせっかく同じクラスなんだから、あいつを知れるチャンスなんか山ほど転がっているだろう。

「ねえねえみょうじくん!さっきの授業でさあ…」

知らない面とか意外な面とか、なんかおもしれえとこ見つけられたらそれをネタにして話しかけたり出来るだろうし。

「みょうじ、これこないだ借りてたノート。ほんとありがとな、助かったぜ!」

へえ、ノートの貸し借りなんか出来んのかよ。別に他人と関わんのは断固拒否!ってわけじゃねえのか。

「なまえくんなまえくん、これさっきの授業で作ったやつなの!よかったら食べて!」

うおっ、他クラスから関わりに来るやつとかもいんのかよ。

「ねえねえ、みょうじくんのメアド教えてほしいんだけど」

なんだあいつケータイ持ってたのか。いや今時高3にもなって持ってねえ方がおかしいか。俺もあとで聞いてみよ。

「ごめんなまえくん、ちょっとさっきの授業のノート見せてくんない?書けてないとこあって…」

……なんだ、今日ずっと観察してっけど、実はコイツ結構クラスのやつらと打ち解けてるじゃねえか。ならなんでこないだの掃除…

「みょうじくんってほんと背が高いよねー」
「ねー!」

あれ、ちょっと待てよ。

「ねえみょうじくん、よかったらお昼一緒に…」

なんか女子に絡まれてる比率高くナァイ!?つかもう昼休みかよ!!先越されたァ!!






「…なるほどねえ。だから珍しく女子に囲まれながら昼食ってたんだ、あいつ」
「なんだヨ、なんだヨあいつ、めちゃめちゃモテてんじゃねえかあいつ、実はそういうキャラだったのォ…?」

結局そのまま放課後になってしまい、みょうじと話せぬまま部活に行くことになってしまった。いろいろとモヤモヤしたまま見つけた新開に軽く聞いてみると、少し考える素振りをしてから、ゆっくり口を開いた。

「んー、どうだろ…ほら、なまえってあの見た目と違って中身はすごいビビりだろ?あと、すごい優しいやつだからさ、ギャップ萌えってやつらしいぜ?」
「ぎゃっぷもえ…?」
「例えば靖友がその見た目で実は怖がりだったとする」
「その見た目ってどういう意味だコラ」
「そんな人一人殺せそうな睨み方するくせに人一倍怖がりだとしたら、すごい意外だろ?そういうところに女子はグッと来るんだよ」
「例えがムカつきすぎてピンとこねえ」
「あとはそうだな…母性本能を擽られるって聞いたことあるぜ」
「ボセイホンノウ…?」
「なーんか守りたくなるだろ、なまえって」
「ハア?」
「そういうとこは、俺もちょっと分かるからさ」
「……分かんねえしダッセ。それ」

男のくせに女に守りたくなるって思わせるくらい貧弱だってことだろ、それ。俺だったら絶対に嫌だ。何が悲しくて自分より弱ェやつに守られなきゃいけねえんだ。そう思われるのも嫌だ。むしろ守ってやらなきゃいけねえ側だろ、俺たち男は。そんなんで大丈夫かよあいつ。

舌打ちをしながらロッカーの扉を閉める。そのままロッカールームを後にしようとしたら、やたらとニヤニヤしている新開が目に入った。

「…んだヨその顔。ぶん殴れってかァ?」
「そんな物騒な」
「オメーが変な顔してっからだろ」
「変な顔って…あんまり暴言ばっかり吐いてると、なまえに嫌われちまうぞ?」
「ばっ、ハア!!?おま、何言っ、」
「お?予想以上の反応だな」
「ざっけんなヨてめえ!!どっ、どういう意味だコラァ!!」
「寿一から聞いたぜ。あいつと仲良くなりたいんだって?」
「っ、福チャァァァァァァン!!!」

別に口外すんななんて言ってねえよ?それ以降自分でも引くぐらい積極的に関わりに行ってたつもりだし、最近だとクラスのやつらに「またやってる」みてえな目で見られることもあるし。けど、クラス離れてるから大丈夫だろとか思ってたのに…!

どんどん青ざめていっているであろう俺の顔を見てまた笑った新開の顔面に渾身の空手チョップを打ち込んでおいた。



(よりにもよって一番厄介なやつに!)



160110

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