無口 | ナノ


「………なんだこれは」

昼休み。自分のクラスで読書をしていた福チャンの机にドンッ!と袋詰めになっているリンゴを叩きつけた。

「福チャン、頼みがある」
「その前に荒北。そんな置き方をしてはリンゴが傷む」
「…………ゴメンネ」
「次からは気を付けろ」
「ウン……じゃねーや、話があんだヨ福チャン」
「?」

いつも通り天然をぶっ込んでくる福チャン。あぶねえあぶねえやり過ごされるところだったぜ。

こほん、と咳払いを一つしてから前の席に座り向かい合いになる。俺の雰囲気からなにかを察してくれたのか、福チャンは読んでいた本に栞を刺して鞄にしまった。

「……それで、話とはなんだ。部活のことか?」
「違う」
「では、授業のことか」
「違う」
「……まさかとは思うが…このリンゴの調理法ほ」
「全然違う」
「ではいったい」
「……………えー………っとォ………………あー…………」
「…………」
「その……あれだヨ……んー……………」
「………荒北、なにも恥じることはない」
「え」
「アップルパイの作り方は」
「ちげーよリンゴじゃねーよこれは駄賃代わりみてーなもんだよ俺が聞きてーのはみょうじの、」
「…みょうじ?」
「う、あ、みょうじ、の、」
(うあ?)
「……あ…あれだヨ、ほらァ、福チャンとか新開にはさァ、なついてるじゃナァイ?あいつ」
「…あいつは元来、自ら人と関わっていくようなタイプではないからわからないが、好かれているとは思っている」
「おっ、おお、すげえハッキリ言うネ福チャン…」
「それがどうかしたのか?」

相変わらずの鉄仮面で軽々とそう言ってのけた福チャンが憎い。恐るべし同中パワー。

リンゴを叩きつけた時までは聞く決心がついていたはずなのに、いざ聞き出そうとすると口が思ったように動かねえ。たった一言。たった一言なのに。

部活のことでも授業のことでももちろんリンゴのことでもない。俺が聞きたいのはただ一つ。あいつの手懐け方だ。手懐けるなんて言い方は悪いかもしれないが、手っ取り早く距離縮めるには周りのやつに聞くのが一番妥当だと思った。だからこうして福チャンのとこに来たってのに…!

「…………あああああああああああああああもうこうなりゃ自棄だァ!!福チャン!!」
「なんだ」
「どうやったらあいつと仲良くなれると思う!?」
「優しくしてやればいいんじゃないか?」
「やさっ、え、優しくゥ…?優しくって具体的にどう優しくしたらいいのォ…?」
「怒るな。叫ぶな。怒鳴るな。睨むな。舌打ちするな。乱暴にするな。笑顔で接しろ」
「注文多いヨ!!てかそれって遠回しに俺のイメージ悪く言ってねえ!?」
「みょうじは怖がりなやつだからな」
「答えになってねーヨ!!」
「もう一つだけアドバイスをするとしたら、俺よりも新開に聞く方がいい。やつの方がみょうじのことをよくわかっているだろう」
「ヤダヨ。あいつに聞くのはなんか癪だからァ」

新開に聞くっていう方法は最初から考えてなかった。そんなもん聞いてみろ、変に感付いてきてまたネタにされるのが目に見えてる。

とりあえずは福チャンからのアドバイスを取り入れてみるか。ほとんど普段の俺と真逆に感じるが気にしちゃ負けだ。

「…聞くが荒北。なぜそんなことを聞きに来たんだ?」
「あ?なぜって…そりゃあいつと仲良くなりてえからだろ」
「…………」
「…な、なんだヨ」
「……いや。お前の口から、他人と仲良くなりたいなどという言葉を聞ける日がくるとは思わなかった」
「っせーヨ俺だって柄じゃねえことぐらい察してんヨ!!」

だってムカつくじゃねえか、俺にだけビクビクしやがって。あいつと同じクラスになってからもう数週間経ったけど相変わらずなんにも変わんねーし、他のクラスメートには普通に接してるし、なんで俺ばっかりビビられなきゃなんねーんだよ。理不尽すぎんだろ。

だから教えてやんだよ、人を見かけで判断するんじゃねーってな。




(教室戻ったらさっそく試してみっか)



160109

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