無口 | ナノ
彼とあいつのその後

「なまえ、俺だ」
「!」
「入っていいか?」

どうぞ、という返事はすぐに返ってきた。それに従い、静かにドアを開けて部屋に入る。もう何度も訪れているそこは、今日も変わらず主と共に俺を迎え入れてくれた。

「お、悪いな。課題してたのか」
「大丈夫、もうすぐ終わるから」
「そっか。おめさん頭いいしなあ」

椅子に座り課題とにらめっこをしているなまえを、机にもたれながら見つめる。

俺よりも長く細いスラッとした腕。俺が少し力加えただけで折れちまいそうだ。腕だけじゃない。大きいのは背丈だけで、全体的にヒョロヒョロしてる。おまけに怖がりで少し人見知り。俺のそばから離れるなんてそうなかった。

なのに、靖友が現れて、すっかり変わっちまったなあ。

(だから焦っちまったのかな、俺)

「!」

高い位置にある頭をくしゃりと撫でると、びくりと肩を震わせた。

「な、なに、どうしたの?なにか、ついてたかな」
「いや、ちょっと撫でたくなった」
「え?あ、そうなんだ…」
「…なあ、なまえ。おめさん言ったよな。もう自分を殺すなって」
「!」
「確かにさ、俺、今思えばちょっと無理してたところもあったと思う。全部全部おめさんのためにって、いろいろ犠牲にしてたかも」

ごめんな、と言うと、もうたくさん聞いたから言わないで、と軽く怒られてしまった。恐縮しすぎて泣いちまうくらいには謝り倒したからなあ俺。

中学の時のあの一件以来、俺を親鳥とでも思ってるんじゃないかってくらい引っ付いてたなまえ。だから、他に目が行くことなんてないなんて、根拠もない自信があった。それを打ち砕いたのがまさかの靖友だなんてびっくりだよ。絶対になまえとは馬が合わないと思ってたのに、自分のキャラぶっ壊してまで仲良くしようとするなんて。

けどそのおかげで、あいつがあそこまで怒ってくれたおかげで、気付けたこともたくさんある。

「…もう二度とそんなことしないって誓うよ。俺のせいでなまえが傷付くのは絶対に嫌だ」
「………」
「けど、守りたいって気持ちは変わらない。だから、困ったこととか助けてほしいことがあったら、すぐに言えよ?俺はこれからもずっとおめさんの味方だからさ」
「…味方とか、そんなんじゃなくて、いい」
「え、」
「これからも、友達。それで、いいんじゃないかな…」

そう言って、おずおずと俺を見る。でしゃばりすぎたかな、生意気なこと言ってしまったかな…そんな顔してる。

「…ああ、そうだな。これからもずっと友達だ」
「っ、うん!」

そこでようやく笑顔を見せてくれたなまえ。何度も見てるけど、やっぱりすげえ癒されるな、これ。そう思いながらまた頭を撫でてやった。

そうだよな、これからもずっと、友達としておめさんのことを守るよ。おめさんがずっとそうやって笑ってられるようにさ。






(いつかは友達としてでなく)
(大切な人として守らせてくれるか?)



160125

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