無口 | ナノ
俺とあいつのその後

「お疲れ、靖友」
「おー」

ロッカールームでたまたま新開と鉢合わせ。しかも二人きりだ。あの日以降、何事もなかったみてえに普通に話したりしてたけど、二人きりになるのはあの日以降初めてのことだった。

他に誰かがいる時はなんとか誤魔化せていたが、二人きりになるとどう対応したらいいのかわかんねえ。ぶっちゃけあの時のことは一切話してねえし。何もなかったことにするには大きすぎる出来事だったしなァ。

「こないだは、悪かったな」
「!」

どこか気まずい沈黙を破ったのは、新開の方だった。

「……俺はいーんだヨ別に」
「!」
「それより、あいつにはちゃんと謝ったのか?」
「…謝ったよ。何度も何度も。いつもみてえに慌てながらすぐ許してくれたけどな」
「………ならいい。あいつが許したんなら俺も許してやる」
「ははっ、なんだそれ」

どうやら変な仲違いはしなかったようだ。なんだかんだ新開になついてることには変わりねえし、俺がそう簡単にぶち壊していい関係でもねえし。

「あいつはすっかり変わっていった。おめさんのおかげだよ」
「バァカ、変われたのはあいつ自信が努力したからだろ」
「それもそうだな……俺も変わるよ。でもあいつを守ることには変わりない。もっと違う方法で、あいつがずっと笑顔でいられるように」

その声はとても真剣で、今度は大丈夫だろうなと思えた。

まあもしもまた同じことをしでかしたら、もう一度俺が目ェ冷まさせてやるしな。

「次またあんなことしてみろ、今度こそぶん殴ってやんよォ」
「それは勘弁…ま、そういうことだからさ」
「あ?」
「これからもよろしく、靖友」
「……んだヨ今さら…」
「同じ部活仲間として、友達として」
「………」
「そして、ライバルとして」
「……………………………は?」
「だから、ライバル」
「なんの」
「恋の」
「ハアアアアア!?誰と誰が!!」
「俺とおめさんが」
「ざっけんなテメーの好きなやつとか知らねーヨ!!」
「おめさんと同じやつだよ」
「だから俺の好きなやつ知っ……」

待て。ちょっと待て。何で知ってんだよ当たり前だけど誰にも言ってねえはずだ。なのに何で……!しかもその流れだとこいつもみょうじを狙ってるってことになるじゃねえか!

まさかまたおちょくってんのか、とロッカーから新開の方へ視線を移すと、いつもの笑顔でこっちを見ていた。けど、おちょくるとかそんな顔ではないのは確かだ。

「……お前…マジかよ…」
「マジだぜ。ただの罪悪感だけでここまで一緒にいるわけないだろ?」
「………俺の、き、気持ちは、どこで…」
「覚えてねえぐらい最初っからだ。おめさん分かりやすすぎるからなあ」
「なっ、分かりやすいって…んなはずは!」
「俺だけじゃないと思うけどな。毎日一緒のクラスメートならほとんど知ってそうだけど」
「うっそだろあり得ねえ!!なんでだよ!?」
「だからおめさん分かりやすすぎるんだって。なまえがそういうことに疎くて助かったな」

他人事のように笑う新開。マジかよ、もしこいつの言う通りクラスのやつらも薄々感づいてたとしたら…俺めちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃねーか!完全に必死こいてアタックしてるのバレバレじゃねーか!

「まあなんにせよ、今度は負けねえぜ」
「っせえよそのポーズやめろボケナス!」

最悪だ。もう最悪って言葉しか出てこねえ。




(一番厄介なやつがライバルとか)
(出だしからタチ悪すぎんだろ!)


160125

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