俺と彼のその後
「はよォ、みょうじ」
「!」
あれから数日が過ぎた。俺たちの関係は変わってない。
「おはよう、荒北くん」
変わったことと言えば、みょうじが二人きりの時でなくても喋ってくれるようになったことだ。
あの日から少しずつ少しずつ声を出していくようになって、今では普通に会話できるまでになった。俺だけじゃない。クラスのやつらともちゃんと声を出してコミュニケーションをとっている。まあ元が消極的でビビりなやつだから、基本的にビクビクしながらではあるが、それでもこいつにしてはだいぶ成長したと思う。
そして、声を出すようになった今でもモテパワーは健在だった。
「そうなんだあ、みょうじくんもあの曲聞くんだね」
「…すごく、耳に残るので」
「だよねだよね!わかる〜…」
「みょうじ、食券買いに行こうぜェ」
「あ、うん!」
ヤなやつだってのは自分でもわかってる。けど、俺や新開といった信頼してるやつ以外には敬語で接するとことか、ぎこちない笑顔で話すこととか、そういうとこ見るとどうしても優越感みたいなのを感じてしまう。
「…今日何食うのォ?」
「俺は、きつねうどんにしようと思うんだ。荒北くんは?」
「ふーん…じゃあ俺もおんなじやつ食うわ」
「あ…じゃあ、お揃いだね」
ニコニコ嬉しそうに笑ってそんなこと言うもんだから、俺の馬鹿正直な心臓はそれだけでこいつにも聞こえるんじゃないかってくらいに大きく音を立てやがる。
みょうじのことが好きだって気付いた瞬間から、今まで以上に積極的に絡みに行ってんだけどあんまり効果は見られない。まあ構ってもらえてるって嬉しそうなこいつが可愛いからいいんだけど。
…なんかもう開き直ってから簡単に好きだの可愛いだの言える自分が恐ろしい。片想いって怖い。
「あ、あの、荒北くん」
「あ?どしたァ」
「その、最近、俺とばっかり食べてるけど…部活のみんなとは、いいの?」
「あー、んなこと気にしてたのォ?大丈夫だヨ別に。部活で嫌でも顔合わすんだから」
「…そう。でも、俺に気を使ってるなら、大丈夫だからね?頑張って、友達作るから、俺」
張り切ってそう言うみょうじに少しモヤリとした。別に友達作んなとは言わねえけど、それって他のやつとも食べたいってことかよ。
「…みょうじは俺とばっかり食べんの嫌なのォ?」
「えっ、いや、違うよ!そんなことない」
「…違うってのはわかってっけどさァ。まあほんとに思ってたとしたらゴメンネ?」
「?」
「俺よっぽどのことがない限り、もうこれからはみょうじとだけ食べるって決めたからさァ」
どうだ、ちょっとは動揺してみやがれ…と思ったのに。
「毎日、荒北くんと、ご飯かあ…楽しそうだね…」
ふわふわ笑いながらそんなことを言う。
「……ボケナスがァ」
「えっ、う、ご、ごめん、ね?怒った?」
「怒ってねーよバァカ」
笑顔が一瞬で消えて、今度はあたふたと焦りだすみょうじ。面白ェやつ。まあ予想通りノーリアクションだったのにはもうつっこまねえよ。
友達以上になるまでの道のりは、多分友達になるまでよりも長く険しいことになるんだろうけど、まあそれも悪くねえのかなと思ってしまう。
「つーか早く行こうぜ、チャイム鳴っちまう」
「あ、ほんとだ、急がなきゃ」
こいつのペースに合わせてゆっくりゆっくり距離を縮めていくしかねえ。それまではこの“友達”って関係を楽しむとするか。
(けどまあ、いつか我慢できなくなったら)
(そん時は許してネェ)
160124
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