無口 | ナノ
12

「………またか」

昼休み。いつかみてえに袋詰めになったリンゴを持って福チャンのクラスにやってきた。その机にソッとリンゴを置いて、前の席に座って向かい合わせになった。

「………」
「…またみょうじのことか?」
「………」
「前にも言ったが、俺よりも新開に聞いた方が」
「新開はダメだ」
「………」
「あいつは、新開はダメだ」
「……そうか」
「…なあ福チャン、知ってる範囲内でいい。あいつらのこと教えてくれねえか?」

あいつが休みだしてもう一週間だ。担任はインフルだとかなんとか言ってたけど嘘だと思う。恐らく、新開がそうさせてるんだろう。全部ただの俺の憶測でしかねえけど、そんな気がする。

あの二人、ただの友達同士ってわけじゃなさそうだ。まさかとは思うけど、付き合ってるとか?

「…どうして知りたいんだ。もう友達になれたと聞いたが」
「……みょうじを助けてえ」
「………」
「あいつ、多分まだなにか隠してやがる。それを知りてえ。でも怖がらせたくねえから無理矢理になんて聞けないし、それ以前に今は簡単に話せる状況じゃねえ。少しでもいい、なんでもいい、情報がほしいんだ。闇雲に問い詰めるだけじゃダメなんだよ」
「なぜそこまでして助けたいと思う」
「……あいつが俺を優しいやつだって言ってくれたから」

あいつが、あいつだけが、俺なんかのことを何度も優しいって言ってくれた。全部お前のビビり癖を直すためだけの優しさだったのに。純粋にそう言ってくれた。

それが嬉しかったから。また言ってほしいから。なによりあの笑顔をまた見たいから。このまま時間だけが過ぎて、何もなかったみたいになるのだけは絶対にいやだ。

また前みたいになるには、新開との関係が鍵だと思う。けどそんなこと本人になんてもちろん聞けねえ。

「オメーにしか頼めねえんだ。頼むよ、福チャン」
「………あいつは、」
「!」
「みょうじは、新開のことをヒーローだと言っていた」
「…ヒーロー?」
「中学の時、上級生にいじめられていたところを助けてもらったらしい」
「!」

それってまさか、声出さなくなった原因のやつか?

「それ以前から同じクラスのよしみで仲は良かったらしいが、そのいじめ以降、周りも驚くほどに急速に距離が縮まっていったそうだ。常に二人一緒だった。恐らく先生たちはみょうじのあのトラウマを考慮して、残りの二年間も二人を同じクラスにしていたのかもしれない」
「…それが新開依存に拍車をかけたってか」

しかも高校に入っても去年までずっと同じクラス。そりゃあんなにベッタリになるわけだ。

トラウマになるくらいの状況の中助けてくれた新開をヒーローだと呼んで依存してるみょうじ。それを優しく甘やかして受け入れてさらに依存させて独り占めしようとしてる新開。そうしてどんどん自分達だけの世界に落ちていく。ふと、そんな絵面が浮かんだ。

この考えが100%正解だとは言わねえ。あくまで予想だ。けど、多分こんな感じなんだろうな、あいつら。

「…アンガトネェ、福チャン。そんだけ聞けりゃ十分だわ」
「…助けてやれそうか」
「おー。まあやってみなきゃわかんねーけど、頑張るヨ」

みょうじを助けてやんのは大前提として、ついでだ。あのデブの目も覚まさせてやるかァ。

なあみょうじ。あの時ごめんねっつったのはさァ、わざわざ声掛けてきたのはさァ、助けてほしかったからなんじゃねえのかよ。だから最後引き留めたんじゃねえのかよ。本心はお前にしかわからねえけど、俺はそうだって信じたい。

心配すんなよみょうじ。ぜってえ助けてやるから。



(だからまたあの笑顔で優しいねって言ってくれる?)


160121

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