「フランディちゃーん、休憩時間でーす!」
「!」
カランカランとベルを鳴らしてフランディちゃん…もといいちを呼んだ。どこかゲッソリとした様子に首を傾げる。そんなに疲れちゃったのかな。
「だ、大丈夫かいち」
「大丈夫です…ただ、その、バニーさ…新開さんの無茶ぶりが多くて……」
「あー……」
どこか遠くを見つめながら笑ういちに心底同情した。俺の視線の先にいるしんは察したようにバキューンポーズをこちらに向けている。あの確信犯め。
しかし困ったな。休憩に入るとはいえまた戻ってきてもらわないといけないのに、この調子じゃ……あ、
「いち、どこかに行く予定とかある?」
「いえ、もうこのまま裏で休んでおこうと思っていますが」
「そっか、わかった!ここから離れるなよ!」
「えっ、あ、みょうじさん!?」
猛ダッシュで教室を出た。あれはたしか、中庭の模擬店にあったような気がする。急げ俺!
離れるな。そう叫んでそのまま出ていってしまったみょうじさん。あれからもう20分は経っている。どこに行ってしまったんだろうか。追いかけるべきか迷ったが、離れるなと言われたので大人しく待っていた。しかしそれにしてもなかなか戻ってこないなと時計を見る。
(……もうすぐ休憩時間が終わるな)
後半も頑張らなければ、とイスから立ち上がった瞬間、扉が開いた。出てきたのは汗だくになったみょうじさん。ぎょっとして駆け寄ると、香ばしいソースの匂いがした。
「あ、あの、みょうじさん…?」
「はあっ、はあっ、あ、危なかったぁ…!」
「え」
「さ、差し入れ!いちに!はい!」
「!」
そう言って差し出された袋の中には、ホカホカのたこ焼きが入っていた。
「……これ、は…」
「遅れてほんっと、ごめんな、ギリギリに、なっちゃった…意外と、混んでてさあ…」
ぜえぜえと肩で息をしながら、それでも笑ったみょうじさん。いちの大好物!だなんて、まるで自分のことみたいに嬉しそうに言った。
「休憩時間、ちょっと伸ばそうか。これ食べ終わるまでにしよう!」
「…みょうじさん……ありがとうございます!」
「気にするなよ。これ食べてまた頑張ってもらわなきゃだからな!フランディちゃーんファイトー!」
「もちろんです!アブ!」
この人のこういったところに、荒北さんを始めとした自転車競技部のメンバーは心動かされる部分があるんだろうなと強く思う。だからこそ、今回の出し物も何事もなく進められたんだろう。きっとみょうじさん本人はありのままの自分を出しているだけなんだろうけど、それが不思議と人を惹き付けるんだ。
お言葉に甘えて戴こうと袋からたこ焼きを取り出して、あることに気付いた。
「さて、それじゃ俺もそろそろ…」
「みょうじさん!ほら、これ」
「ん?」
「つまようじ、二本ありますよ」
ご一緒にどうですか?
つまようじに刺したたこ焼きを差し出すと、みょうじさんはまた嬉しそうに笑ってくれた。
160522