「たっとちゃーん、休憩時間でーす!」
「!」
カランカランとベルを鳴らしてたっとちゃん…もとい葦木場くんを呼んだ。はーい!と可愛らしく返事をした葦木場くんは、嬉しそうに俺のところへ走ってきた。
「お疲れさま!30分間、自由にしてていいからな。行ってらっしゃい!」
「みょうじさんも休憩ですよね?」
「え?ああ、まあそうだけど」
「ならちょっと付き合ってください。俺、行きたいところあるんです!」
「そうなの?別に良いよ、行こうか」
「やったー!じゃあ行きましょう!」
さらに嬉しそうに顔を綻ばせた葦木場くん。可愛いなあと思いながら、差し出された手を素直に掴んだ。
「ごちそうさまでした!」
「いえいえどういたしまして。美味しかったか?」
「はい!」
きれいに平らげたパフェのグラスを満足そうに見つめるみょうじさん。まず美術部の作品展を見に行って、縁日やってるクラスで綿菓子を食べて、最後に創作パフェの模擬店でパフェをご馳走してもらっちゃった。ほんとに美味しかったけど、何よりも嬉しかったのはこの30分。
「ありがとうございました、みょうじさん」
「いいってば。俺先輩だしー、支配人だしー、これくらいはしないとな!」
「あ、いえ、たくさん奢ってもらったこともなんですけど、」
「?」
「この30分間、独り占めさせてもらったから」
そう言うと、みょうじさんはきょとんと目をまあるくした。でも、本音だった。行きたいところだなんて出任せで、本当は一緒にいたかっただけ。だから適当に選んだハチャメチャなコースだったのに、みょうじさんは嫌な顔一つせず付き合ってくれた。
「独り占めって、そんな大袈裟な…」
「大袈裟じゃないです!でも、ワガママばっかりですみませんでした」
「気にするなってー。むしろ葦木場くんはもっとワガママ言うべきだと思うぞ俺は」
「………」
「やすとかがくなんか、ワガママばっかりだし…」
「……なら、もう一つだけいいですか?ワガママ」
「おう!もう一つどころかもう三つくらいしてもいいくらいだ」
言ってみろ、と笑うみょうじさんに、胸の奥がじんわり熱くなった気がした。
「メイドさんやるのは今日までですけど」
「うん」
「ニックネームは、これからも続けて呼んでください」
「……たっとちゃんって?それだけでいいの?」
「はい!」
「そっか……わかった!これからもたっとちゃんって呼ぶ!」
「はい!!」
嬉しい。俺だけの、特別なニックネーム。たっとちゃん。嬉しさを隠しもせずに、勢いのままブンッと腰を曲げて頭を近づけてしまった。それでもいつものようにわしゃわしゃと頭を撫でてくれたみょうじさんが、大好きです!
160520