「みょうじさん」
ふと名前を呼ばれて顔を上げる。そこに立っていたのはがくだった。
「おう、がく。どうした?」
「………」
「……がく?」
「……ねえ、みょうじさん」
「ん?」
「俺、みょうじさんのこと、好きなんです」
「……ああ…ありがとう、俺も好きだよ」
突然の言葉に少し驚いたけど、素直に嬉しかった。後輩に好かれて嫌なやつなんかいないだろう。
返事をしながら頭を撫でようとしたら、その手をパッと掴まれた。
「…俺、言いましたよね」
「え」
「好きなんです、みょうじさんのことが」
「……がく、それは」
「苦しいんです。みょうじさんのこと考えたり、みょうじさんに会うと、ほら、ここがすっごくうるさくなって、辛いんです」
掴まれた手はそのままがくの胸の方へと持っていかれた。押し付けられたそこは、たしかにどくどくと大きく波打っていて、余計に困ってしまった。俺は、がくの望む答えを返してやることはできない。
「…がく、気持ちはすっごく嬉しい。ありがとう。でも、」
「別に、今さら付き合って欲しいとか、好きになって欲しいなんて思ってないんです」
「!」
「ただ…」
勢いよく手を引かれて、そのままがくの胸にダイブしてしまった。慌てて離れようとしたら、今度は顔を掴まれて、
「ちょっと我慢できなくなっちゃったなーって」
「が、がく、待って」
「ねえみょうじさん、二人だけの秘密、作っちゃいましょうよ」
いつもみたいな間延びしたような喋り方なのに、顔も声も真剣だから動揺する。これはまずい。こんなことしたっていいことなんか一つもない。絶対だめだ。
「っ、ダメだ離れろがく!!」
「へっ」
「こんなことしたって誰も報われ……あ?」
景色が一瞬で変わった。あんなに真っ白な空間にいたのに真っ暗だ。ていうかここ、旅館の部屋か。あれ、俺は今まで何を…
「…大丈夫ですか?みょうじさん」
「わ!が、がく、これは、一体…!」
「えー、どうしたんですかそんなに混乱して……そっか、よっぽど怖い夢見てたんですね」
「………ゆめ?」
「ほら、俺の隣みょうじさんでしょ?だから魘されてたのにすぐ気付いて、声掛けてたんです」
大丈夫ですか?ともう一度尋ねてきたがくにすべてを察した。なんちゅう夢を見てたんだ俺は…恥ずかしい…
四人ずつで部屋をとっていたので、ふくたち三年四人と、がくたち後輩三人の部屋に別れている。人数を合わせるために俺は後者の部屋にいたんだが、申し訳ないことをしたな。
「大丈夫だ。ごめんな、起こしてしまって」
「いえ、平気ですよ。眠れそうですか?」
「おう」
出来るだけ明るく返事をして、布団に入る。はー、夢でよかった。
「おやすみ、がく」
「おやすみなさーい」
そうだよな、よく考えればおかしいよ。がくがあんなこと言うはずないしな。本当、夢でよかった。
(みょうじさん、俺の夢見てくれてたのかな)
160121