よそでやれ | ナノ


合宿一日目:不機嫌な理由  



「がく、もうすぐ昼飯らしいからみんなのこと呼んできてくれるか?」
「はーい、わかりましたー!」

あれから少し遅れて旅館にやって来たがくにそう告げて数分後。ちらほらと集まってきたみんな。その中でも気になったのがやすの顔だった。明らかに不機嫌だ。理由は知らないけど、がく大丈夫だったかな。八つ当たりされてないかな。

声をかけるべきかどうするべきか迷っていると、察したらしいしんがこっそり耳打ちしてくれた。

「靖友のやつ、ニャン吉を抱っこ出来なかったから拗ねてんだよ」
「にゃんきち?」
「この旅館が飼ってるらしい黒猫がいてさ。触りたがってたんだけど、抱っこしようとしたときに真波が来たから、驚いて逃げちまってな、ニャン吉」
「ふーん…」

聞きながらやすの方を見つめる。ブスッとしてる。いつも以上にブサイクになってるぞ。

そんな俺の失礼な思考に感づいたのか、やすとバッチリ目が合ってしまった。

「……あー…やす、ほら、四日もここで過ごすんだからさ、またいくらでもチャンスはあるよ、大丈夫大丈夫」
「………」

誤魔化すようにそう励ましてみた。するとやすは黙って……両手を前に出した?

「ん?」
「おいで」
「え」
「おいでェ、なまえチャン」
「「「!!?」」」

多分ここにいた全員がこちらに振り向いたと思う。あのふくですら。な、なんだ、その甘ったるい優しい声は。誰だ。

おいでということはつまり、その両手はそういうことなんだろう。ここは素直に行くべきなのか?いやでも恥ずかしすぎるんだけど。みんなめっちゃ見てるし。おいしんムービー撮るなやめろ。

「や、やす、どうした、みんな見てるぞ」
「いいからほらァ、おいで、なまえ」
「ぐっ……こ、これでいいのか!?」

ダメだ、そんな優しい声と顔で囁かれたら抗えない!ズルいぞやす!

ほとんどやけくそでその腕に飛び込んだ。見上げながらそう叫ぶと、なにか考えてるような顔をしたやすと目が合う。

「……んん…」
「んん!?」
「…なまえチャンになら簡単にできんだけどなァ」
「っ!?」

ポツリとそう呟くと、頭を数回撫でてからあっさり離れていったやす。どういうことだ誰か解説してくれ…と思ったらしんが口を開いた。

「今の方法でニャン吉を呼べばって提案したんだけど、恥ずかしがってさ、靖友」
「………」

それはつまり、

「……猫と比べたってことかこの野郎!!!」
「いっでぇ!!」

俺の渾身の背中ビンタがクリティカルヒットした。



(恥ずかしいのはこっちだ馬鹿!!)



160120

[ ]