(診断ネタ)
なぜなのか、どうしてそうなったのか、理由がわからない。わかるのはなまえがすげえ怒ってるってことだけだ。朝からずっとだ。目が合うと睨んでくるし、話しかけても素っ気ないし、訳を聞いても答えてくれないし、なすすべなしって感じだった。
まあそのうち口で言ってくんだろ、とイライラしつつもそう思っていたのに。
「…オメーいい加減にしろヨ」
「………」
「なに。なんなの。まだ怒ってんの」
「………」
「……俺知らないうちになんかしてたァ?」
「………」
夜。いつも通り部屋にやって来たもんだからすっかり元通りになったんだと思ったのに、日中となんら変わってなくて、さっきからずっとだんまり。ベッドの上に二人して並んで座ってる、もうこれ以上ないってくらいに話しやすい状況を作ってやったと思ったのに。なまえがこんなにあからさまに「俺怒ってます」って態度見せるのが珍しいからあんまりつっこまなかったけど、さすがの俺も我慢の限界だ。
怒ってるくせにわざわざ部屋来るってことは、理由を話したいんじゃねえのかよ。直接伝えて怒りをぶつけてえんじゃねえのかよ。
「言わねえとわかんねえぞ」
「………」
「なあ、なまえ」
「………」
「あんまりそれ続けんなら、俺だって怒るヨ?」
「………」
「……あー、そう。わかった。もういい。なんも聞かねえ」
「!」
そばにあった体を抱き上げて、向かい合わせになるように膝の上に乗せた。当然のように抵抗してきたなまえが逃げないように、きつくきつく腰を抱き寄せる。
「やす、痛い」
「知らネ」
「っ!」
それでもなお態度を変えようとしないから、そのまま無理矢理口付けた。少し驚いたみたいだけど、それだけで、大した抵抗をしなかった。それをいいことに、角度を変えて何度も何度も触れるだけのキスをする。
あれ、こいつ、抵抗するどころか…
「……なまえチャン…?」
「………」
「……もっと怒ると思ったのに」
「……もういいよ、意地張るのが馬鹿らしくなってきた…俺の気にしすぎだ」
「へ」
「今日は悪かったよ、やす。もう抵抗しない」
一人勝手に納得して、諦めたみたいに俺から視線を外した。
「…いやいや、話全然わかんねえんだけど」
「気にしなくていい。というか気にしないでくれ、恥ずかしいから」
「言うまでずーっとキスしちゃうヨォ?」
「……好きにしていいよ」
「は」
なにその殺し文句。
(take2)
「……俺知らないうちになんかしてたァ?」
違う。やすはなにもしてない。やすはなにも悪くない。ただ俺が嫌だっただけだ。朝どこかで聞いた、女子たちの話。荒北くんって実はかっこいいよねーって。
知ってるよそんなの当たり前だよ俺が一番よくわかってるし!でも、まさか、女の子たちにまで気付かれるようになるなんて。入学当初はあんなにビクビクされてたのに。そりゃ最近のやすのかっこよさはちょっとどうかしてるんじゃないかってくらい満ち満ちてるし、長年そばにいた俺でさえたまに直視できないこともあるくらいかっこいい。それを、一年やそこらしか関わりがないくせに…口悪いな俺。
とにかく、嫌な気分だった。でもこんなこと言っても迷惑がられるだろうし恥ずかしいしダサいし余裕ないみたいで言えない。かといって簡単にのみ込めるものでもなくて。朝からやすには変な態度をとってしまった。
だから夜。やっぱり伝えようと勇気を出して部屋に来たのに、言い出せない。どうしよう。やすもさすがにイライラしてきてる。ああでもこんなこと言って解決するのかと言われればそうだとも言い切れないしこれからもやすのことかっこいいとか好きだとか言われたり思われたりするんだと考えるとそれだけで嫌な気分になるしでもそれはやすのせいじゃないのにこんな八つ当たりみたいな…
「…あー、そう。わかった。もういい。なんも聞かねえ」
「!」
嫌われ、た?いやだそれだけは阻止しなければ…!
「んっ、」
気付けば胸ぐらをつかんで引き寄せて、思いっきりキスしてた。やすはもちろん俺もビックリした。こんなこと出来るようになったのか俺。一瞬のことだったけど、すごい恥ずかしい。
「あ、えっと…そ、そのだな、俺、」
「………」
「…ご…ごめんやす、実は…っ」
余計気まずくなってしまったので、誤魔化すようにポツポツと言葉を並べる。もうこのまま伝えてしまおう。そう思ったのに、素早く顔をつかまれて、今度はやすからキスされた。
「ん、ふ…ゃ…!」
「はァ…っ…ん…」
しかもいつものと違う。舌が入ってきた。なんだこれ、すごい。クチュクチュって音が、部屋に響いて、恥ずかしい。ふわふわする。どうすればいいのかがわからなくてされるがまま。息を吸いたくて胸を叩くけど止まってくれない。唾液が口の端からこぼれる。
「んぅ…は…なまえ、」
時折こぼれる吐息と一緒に掠れた声で囁かれる自分の名前にぞくぞくした。体中が麻痺したみたいに甘く痺れる。口内を暴れまわる舌が気持ちいい。けど、そろそろ、ほんとにやばい。
瞬間、唇が離れた。口から顎を伝って流れ落ちる唾液を舐めとって、そのまま唇も舐められた。それだけでまたビクリと体が反応してしまう。ぼんやりした視界に映るやすは、俺と同じように肩で息をしながら、そのくせまだ足りないって顔で、物欲しそうな顔で、鋭く俺を見てる。
「…はっ…さっきの、お返し…」
「はあっ、はあっ…!」
「…ネェ…今、自分が、どんな顔してるか、知ってるゥ…?」
こんな顔見れるのは多分俺だけなんだと思うと、さっきまでの自分が馬鹿らしくなってきた。
「すっげぇ、エロい顔してんヨ、なまえチャン」
「…それ、お互い様だろ…」
おでこをくっつけて、ニヤリと笑って、まだお互い息も整えてないまま、もう一度キスをした。
荒北がマネ主の腰をきつく抱き寄せて唇を奪うと「抵抗しませんから」と諦めたように視線を逸らして力を抜きました。
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マネ主が荒北の胸倉を掴んで唇を奪うと「お返し」と逆に深く口づけてきました。
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