よそでやれ | ナノ


インターハイ三日目:裏話  



(待宮の煽りtake2
〜もしもみんなの沸点が低かったらver.〜)



「エッエッエ…君じゃろ、みょうじくんて」
「え、なんで知って…」

「てんめえコラ待宮ァァァァ!!俺のなまえチャンに気安く話しかけてんじゃねーヨ二度と表出れねえ面にしてやろうかボケナスがァ!!」
「やす!」
「うちのマネージャーに手を出すとはどういう了見だ」
「ふく!?」
「下品な笑みを晒すな、そいつが汚れてしまうだろう」
「ぱちまで!?」
「ヒュウ…待宮くん、なまえに手を出すと鬼が出るぜ?」
「しん!?お前は遊んでるだろ!!」
「新開さんがバキュンポーズを…なら僕も、本気を出さないわけにはいきませんね」
「泉田くん乗っからなくていいから!!」
「ふ、ああっ……なんか嫌な予感がすると思ったら…みょうじさーん、俺もこれ参加していいですかー?」
「しないでがく!!なんか笑顔が怖い!!」
「悪ィ田所っち、自転車頼むわ」
「いやいやいやお前まで参加すんな巻島!!」
「なんかみんなおかしいぞ!どうしようくろ…」
「てめえそれ以上この人に近付くなどうなっても知らねえぞ」
「くろまで!!」
「プププ…待宮くうううん、なんや面白そうなことやってるやないのォ…」
「御堂筋!?お前どっから…!?」
「髪の毛切ったんだね御堂筋くん」

(な、なんじゃこれェ…!!箱学どころか総北やら御堂筋まで食い付いてきた…!!しかも反応大きすぎじゃろ何モンじゃこいつ!!けど、うまく利用すれば…!)

「え、えらいモテるんじゃのうみょうじくん…まあこん中じゃったらワシが一番イケとると思わんか?」
「?」
「どうじゃ、さっきのマネージャーの子にはフラれてしもたし、君がワシと付きおうてくれんか」
「…待宮くん、だったな」
「!」
「気持ちは嬉しいが俺はあそこにいる荒北靖友のものだから諦めてくれ」
「エエエエ!?そんな堂々と交際宣言!?」
「別に隠す必要もないからな」

「なまえチャンがイケメン過ぎて辛い」
「結局こうなるのかこのバカップルめ!!」









(レース終了後)



負けてしまった。勝ちたかった。どちらも言うだけなら簡単だけど、実際には気が狂いそうになるくらい重たいもので、どうにかなりそうだった。あと少し、ほんの少しの差だった。でも負けは負けだ。揺るぎない事実。俺は、坂道くんに負けた。敗北した。王者箱根学園の名前を、王者としてのプライドを、先輩たちがここまで積み上げてきたすべてを、台無しにしてしまった。

『次のインターハイに俺たちはいない』

福富さんの言葉が重くのし掛かる。そうだ。もう三年の先輩たちはみんないなくなっちゃうんだ。まだ全然実感わかないや。

福富さんも東堂さんも新開さんも、遠回しに背中を押してくれた。次は絶対に勝つ。勝って、王者の座を取り戻す。必ず。

みょうじさんがここにいたら、きっと、ただ「お疲れさま」って言うだけなんだろうな。なんでもないように笑って、お疲れさまって言って、頭を撫でてくれるんだろうな。ここにいなくてよかった。もしいたら、もし俺がイメージしてた通りのことをされたら、きっとまた泣いてしまうから。あの人には見せたくない。

それにあの人はきっと、荒北さんのところにいるだろうから。そう思っていたのに。



「がく」

ほら、そうやって優しく俺の名前を、

「……みょうじさん。来てたんですね」
「うん。ちょっと前に着いたんだ。道が混んでてさ。来たところでって感じだったよ」

恥ずかしそうに笑うみょうじさん。どうして来てしまったんだろう。もうすぐ表彰式が始まるから、呼びに来てくれたのかな。

「がく」
「!」

それとも、福富さんたちみたいに、厳しい言葉が飛んでくるとか?

「ごめんな」
「……え、」
「朝、約束したのに。お前の走ってる姿、見てやれなかった」

そしてまた、ごめんなって言った。どうして謝るんだろう。そんな約束より、俺は、負けたんだ。二位になってしまったんだ。なのに、どうしてみょうじさんが申し訳なさそうな顔するんだ。

「みょうじさん…」
「中継でずっと聞いてた。すごかったみたいだな。がくが先頭走ってるって聞いてビックリしたよ。同時に、余計間に合わなくて残念だった」
「…みょうじさん、俺、」
「がく」
「あの、俺、俺は、」
「来年、絶対勝てよ」
「!」
「お疲れさま」

最後に優しく笑って、テントから出ていったみょうじさん。ほら見ろ、俺が思った通りだった。

「……たまんないや、ほんと」

もう出ないと思ってた涙が、懲りずにまたどんどん出てきて、拭うのが大変だった。



(それでも心は驚くほど落ち着いたんだ)




160115

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