よそでやれ | ナノ


インターハイ一日目:下  



ホンマは単独で一位取る予定やってんけどまあええわ。一位なんは変わらんしな。また明日から詰めていけばええことやし。

(そのためには君ィが鍵になるんよ、みょうじクゥン…?)



「見ィつけたァ」

デローザを部員に預け、ゆるりと人混みを見渡すとすぐに見つけた。振り返ったのと同時に頭を掴んで顔を寄せる。目をぱちくりさせて不思議そうに僕を見るみょうじくん。

「…御堂筋くん」
「残念やったねェ箱学ゥ…あんなに頑張っとったのに一年の僕ゥと並ばれとったねェ。王者交代も近いんとちゃう?」
「そうだな…俺もまさか同着になるとは思わなかった。でもうちの実力が劣ってたわけじゃないよ」
「はあ?実質負けと同格のくせに言い訳するん」
「御堂筋くんの実力が予想以上だったからだと思う」
「は」
「俺だってびっくりしたもん。すごかったな最後の走り。本当に一年か?」

…なんやこいつ。自分は平気ですぅって逆に煽りに来とるんか?

「なにィ。おだててるつもりなん」
「捉え方は自由だよ。でも素直にすごいと思ったのはたしかだ」
「………」
「けど、明日の一位は箱学だよ」
「……やっぱり、キモいな、君ィ」
「うっ、そ、そのキモいってやめてくれるかな!傷付くんだけど!キモくないし!」
「ほなもっと言うたるわ。キモいキモいキモい」
「しつこっ!ていうか、そろそろ離してくれるかな、俺行かなきゃ…」
「えええ〜?どないしよかなァ」
「ちょっと、御堂筋くんってば!」

そういえばタオルやらなんやら抱えとる。そうかマネージャーやもんなあ、あとからくる選手にも渡しに行かなあかんもんなあ、けどこのまま行かせるのもなんか癪やしなあ。

どうしたろかなあと考えていたら、ふと右手から温もりが消えた。

「てめえ、一年だろ。年上相手に何してんだよ」

見ると、みょうじくんは後ろから腕を引かれて僕から引き剥がされていた。なんや、箱学の選手か。

ギラギラと僕を睨み付けるその目から感じるのは、分かりやすすぎるほどの強烈な怒りだけ。やっぱりこいつら、キモすぎやわ。

「プププ、それもそやね…ほなまた、みょうじセンパァイ」

けどこれで確信に変わった。やっぱり箱学バラすんやったら、みょうじくんつつくのが一番手っ取り早いわ。


(二日目はもろたな)











「ありがとうくろ、助かった…」
「焦りましたよ…荒北さん帰ってきたのに、なんにも持ってなかったから」
「え、やす帰ってきた!?」
「はい。てっきりもうなまえさんが渡しに行ったと思ってたのに、見てねえって言ってて」
「うあああああああああああやっちゃったああああああああああ…ぱ、ぱちは!?他のみんなももう来た!?」
「いや、まだっス。けどもう言ってる間に来るでしょうね」
「よし名誉挽回だ行くぞ!」

まさか御堂筋くんにあそこまでしつこく関わられるとは思わなかった。しかしなんたる失態だ。せめてぱち以降のみんなにはいち早く会わないと。

急いで走り出そうとしたら、片腕だけビーンと後ろに引っ張られた。ああ、そういえばさっき助けてくれた時に掴まれてたんだっけ。

「ごめんくろ、腕…」
「なまえさん」
「ん?」
「…いつもいつも、油断しすぎなんスよあんたは。もっとしっかりしてください」
「え、なに、軽く失礼だぞそれ」
「もっと警戒心持てっつってんですよ」
「警戒心って、同じ高校生相手にそんな大袈裟な…」
「俺にもです」
「は?」
「…俺のことも、警戒しててください。じゃないと、」

それは、どういう…ライバルとしてってこと?隙あらばいつでも奪っちゃうぞとかそういう?

ちょっと待てそれとこれとは別だぞ、と思ったら不意に腕からくろの手が離れた。

「何してんの」

不機嫌そうな声が飛んできたかと思えば、振り返る前に反対の腕を掴まれる。そのまま強引に引っ張られて、そのせいで手からタオルやボトルが落ちていった。

「ちょっ…や、やす!!落ちた!!」
「………」
「……やす?」

声の主はやすだった。汗だくで息も荒いまま、どこかへ連れていかれる。名前を呼んでも声を掛けても応答なし。もしかしてまたくろと一緒にいたから怒ってるのかな。そんなことよりお疲れくらい言いたいのに、とても言える雰囲気じゃない。そして俺はどこまで連れてかれるんだろう。ゴール地点から離れてってるのは確かだ。

「……なまえ」
「!」
「………」
「……なに、やす」

着いたのはどこかの学校のテント裏。みんな選手を出迎えるために出払っているのだろう。誰もいなくて静かになっていた。

名前を呼ばれたから返事をした。でもやすは喋らない。喋ろうとして口を開くけど、またすぐに閉じる。それの繰り返し。

「…いいよ、言って?やす」
「………」
「隠し事はなしだって、思ってることは全部言おうって言っただろ?大丈夫だから、言って」
「……あのさァ、」
「うん」
「…疲れたから、充電さしてヨ」
「うん…ん?」

ぎゅうっ、と抱きしめられた。なんだこれ。普通に照れる。

多分、嘘だろうなと思った。言いたいことがあったんだろうなと思った。でもやすがこれでいいって言うならそれでいいや。言いたくなったら言ってくれるだろうし。

やすの呼吸に合わせて上下する胸板に顔を押し付ける。すごい汗だ。タオル、渡してあげたかったな。

「…やすー」
「ア?」
「お疲れ」
「…アー、疲れたァ」
「明日は一番に言うから」
「っせ。当たり前だバァカ」

抱きしめてくる力が強くなった。それが嬉しくて、俺も負けじともっと強く抱きついた。でもそろそろ戻らないとだよなあ。

インターハイはまだ続く。明日こそ単独一位でハイタッチしたいな。



160105

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