よそでやれ | ナノ


インターハイ一日目:上  



じめじめとした暑さ。こめかみを流れる汗を拭いながら人混みの中を歩いていると、探していた緑髪を見つけた。



「まきーーーー!!おいでませ神奈川!!」
「クッハ!久しぶりだなァなまえ!」
「会いたかったぞ!」
「俺もだ。電話でも言ったが、優勝は譲らねーショ」
「安心しろ、こっちも負ける気はない。と言っても走るのは俺じゃないからそんな偉そうなこと言えないけど」
「間違えて俺の応援すんなよ?」
「誰がそんな…あ、でもダンシングされたらまずいかも」
「クハッ」

再会したまきは調子が良さそうで安心した。会うのはあの日千葉に行った時以来だが、その後も定期的に連絡を取りあっていたので、それほど懐かしさを感じることはなかった。

まきと一通り話終わったあと、そういえばと彼の背後を見た。当たり前だけど知らない顔が増えてる。金城くんと田所くんと、あと三人は一年生かな?

そのまままきに尋ねようとしたら、背後からニュッと手が伸びてきた。

「なんっ、なんで、巻ちゃ、俺よりも先に、なまえに挨拶を…!!」
「ゲッ、東堂…」
「なまえチャァンそろそろスピーチ始まるから最前列で俺のこと見ててねェ」
「いだっ、ちょ、引っ張るなやす!」
「そういうことだ巻ちゃん。俺とも話したかっただろうがレースまでとっておくといい!ワッハッハ!」
「へーへー分かったから早く行けヨ」
「さらっと流すな!」

やすに引きずられるままズルズルと総北から離れた。緩く手を振ると苦笑いしながら振り返してくれたまき。優しい。

「ヘラヘラしてんなよコラァ急にいなくなったと思ったら浮気かコラァ」
「ヤキモチか?」
「………悪ィかヨ」
「悪くない。ちょっと嬉しいぞ」
「っ、こんの、ボケがァ!!」
「なんでだよ!?」
「お前らせめて俺がいる間くらいは控えろ!!」






「なんだ今の…たしか箱学のマネージャーだったかァ?」
「みょうじとかいう名前だったな」
「ああ。元気にやってるみたいで安心したっショ」
「巻島さんの知り合いですか?」
「なんか、目付き悪い人に睨まれたんですけど…」
「王者やなんや言うから、もっとガッチガチで硬派なイメージやったんスけど、そうでもないんスか?」
「あー、まあ、こっちと同じで個性派揃いだとは思うぜ」
「個性派…」
「あのマネージャーの方もですか?」
「なまえかァ…あいつ噂じゃ箱学の姫とか言われてるらしいショ」
「えっ、そ、それはオタサーの姫とかそういう…!?」
「おたさー?」
「出たで、業界用語っちゅーやつや!」
「おたさー…ってのがなんなのかは知らねえが、あいつと話す時は気を付けた方がいいぜ」
「そんなに、危ない人なんですか…?」
「普通そうな人に見えましたけど」
「あいつはな。けど、その後ろには必ず野獣がいる」
「「「野獣!?」」」
「巻島、一年をビビらせるな…」
「そういやみょうじと荒北、あいつら幼馴染みとか言ってたな」
「……ま、それだけならよかったんどけど」
「?」










「箱学ブッ潰しまーす」

福チャンの目の前で高らかにそう宣言したのは俺たちじゃない。突然現れた他校の選手だ。なんだこいつと睨んでいると、総北のやつと揉めだして、最終的に福チャンの一言であっさりとステージから退散していった。名前はたしか、御堂筋だとか言ったか。

俺たちは王者箱学だ。そんな安い挑発になんか乗らねーよバァカ。そう鼻で笑ってたのもつかの間で、

癇に触るにやけた面を晒した御堂筋は、なぜかそのままステージ前方にいたなまえの前で立ち止まった。

「プクク…箱学ゥの、マネージャァァ…」
「…そうだ、よく知ってるな。みょうじなまえ。よろしく、御堂筋くん」
「ファー!よろしくやて!そんな仲良しこよしィしようとしても箱学ブッ潰すのは変わらんよォ?」
「大丈夫だよ。みんな負けないから」
「………キモッ」
「んなっ!」

地味に傷付いているなまえを見てまた笑った御堂筋。その後、チームメイトと共に会場から消えていった。マジでなんだったんだあいつ。

「…大丈夫か荒北」
「は?俺はなまえチャンの方が心配だヨ」
「そうか…俺は一瞬あの一年の身を案じたがな」
「……飛び降りなかったんだからセーフだろ」
「顔が完全にアウトだったぞ」

どういう意味だと舌打ちしたが、多少自覚はある。あの野郎、なまえ相手でも構わず福チャンの時みてえに顔面近付けやがって。

ジッとなまえを見つめていると、さすがに気付いたのか目が合った。大丈夫か、と口パクで伝えると、ドヤ顔とピースサインが返ってきた。可愛すぎかよ。

「見たか荒北!今なまえが俺にピースしてたぞ!」
「俺にだヨしばくぞ」

もうすぐ始まるレース一日目。今年が最後のインターハイだ。悔いのねえよう走らねえとなァ。

オメーの言葉通り俺たちは絶対負けねえからよ、サポート面はよろしく頼んだぜ、なまえ。




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