(「ゼッケンナンバー6」その後)
「なまえチャンさあ、」
「ん?」
「あんま勘違いさせるようなことすんなヨ」
瞬間、伴走車内の空気が凍った。
(たっ…単刀直入過ぎるぞ荒北ァァァァ!!)
(しかも靖友のやつ、わりと本気で怒ってるぞ)
(無理もあるまい…あの真波ですら空気を読まざるを得ないほどの雰囲気だったからな。あの真波ですら)
(俺たちもこっそり見てたけどヤバかったよな。靖友が)
(抑えるのに一苦労どころではなかったからな)
(さすがの俺も骨が折れたぜ。けど裕介くんの時よりはまだマシだったかな)
(あれはひどかったらしいな…しかし荒北め、行きと同じでまた膝の上に乗せるとは…)
(さも当然のようにな。シートベルト代わりらしいぜ)
(隣の泉田の気持ちも考えて欲しいものだ)
「……勘違い?」
「惚けんな、黒田のことだヨ」
「くろ…田くんがなに?」
「なァんで隠すワケェ?俺全部聞いてたからネ言っとくけどォ」
「え」
「くろって呼んでたじゃん」
「あー……それで、くろがどうした」
「思わせ振りな態度とんなっつってんだヨ」
「誰が誰に」
「オメーが黒田にだよ」
「は?とってないよそんな態度」
「ならどうして真波には声かけなかったんだヨ」
「くろのあとに行こうと思ってたのに先に帰ってたから。学校に着いたら声かけに行くつもり」
「ふーーーーーーーーん…」
「……それに、俺、くろの好きな人知ってるから効果ないし」
「は?」
「なにっ!?」
「ヒュウ」
「アブゥ!?」
「オメーらちゃっかり聞いてんじゃねーヨ!」
(どどどどどどどういうことだ!?黒田の気持ちに気付いていたのか!?なまえが!?嘘だろう!?)
(意外だな。黒田がドジ踏むようには見えねえし、かといってあのなまえが気付くようには思えねえしなあ)
(しかし、知ってる上であのやりとりを行っていたと考えると、とんでもなく性格悪い奴じゃないか!?)
(なまえに限ってそんな…けど、話の辻褄が合わなくないか?効果ないしって言ってただろ?)
(効果覿面でしかないと思うが……まさか、勘違い?)
(黒田が誰を好いているのか、ちゃんと分かってないのかもしれないな)
(ということは、はやく話題を変えねばどんどんややこしいことになるのではないか!?)
「……どういうことだヨ、知っててあんな態度とってたってのかァ!?」
「えっ、なんだよその言い方、やすも知ってたのか!?」
「知らなかったのオメーぐらいだヨ!」
「ええええ!?」
「つか話そらしてんじゃねーよ知っててあんなことしたのかって聞いてんだよ俺はァ!!」
「いだだだだだだだだ出る出る出る出る出るやめてやす力緩めてなんか出るからァァァァァァァァ!!!!!」
「なまえチャンいいニオイするゥ」
「コノヤロウ!!!」
「でェ?アイツの気持ち知っててわざわざ煽るようなことした理由はァ?俺が納得できる理由じゃなきゃ一生離さねえぞ。つか離す気ねえけど。もういっそこのままなまえチャンと合体したい」
「煽るって、そんな、してなっ、うえっ、」
「してたから俺こんなに怒ってんだけどォ?」
「うぐ、おま、ほんとに全部、見てたのか!?」
「見てたから俺こんなに怒ってんだけどォォ!?」
「いだいいだいいだいいだいいだいしぬしぬしぬしぬしぬやすってばァァァァ!!」
(よ、よし、なんとか話がそれたぞ!)
(それてんのかどうかはわかんねえけど、いつも通りにはなったな)
(む!?それはそれで面倒だぞ!見ろミラーに写る泉田の顔を!明らかに空気になろう空気になろうと頑張ってるぞ!)
(ヒュウ!ファイトだぜ泉田!)
(バキュンポーズやめろ!)
「っ、大体なあ!なんで俺が!わざわざ!ライバル作るような真似!しなきゃいけないんだよ!」
「「ライバル?」」
「オメーらは入ってくんなバカ×2」
「誰がバカだ誰が!僻むのは顔だけにしておけよ荒北!」
「そうカッカすんなよ靖友。食う?」
「いらねーよバァカ!つかなまえチャン、ライバルってどういうことォ?」
「ど、どうって…俺の口から言えるわけないだろ!」
「なんで」
「……なんでも。ていうか、お前たちさっきから勘違いしてるんじゃないか?」
「勘違いィ?」
「くろが好きなのは俺じゃないぞ」
「「「「は?」」」」
(勘違いしてるのはお前だなまえ!!!一体どこの誰と勘違いしてるんだ!?)
(思わず泉田まで反応してたぞ)
(ライバルとも言っていたな…ライバル…?)
(……おいおい尽八、こいつはまさか)
(い、一番面倒な勘違いを…!?)
「っ、すみませんみょうじさん!」
「え?」
「ア?」
「ユキ…いや、黒田くんの幼馴染みとして、彼の気持ちを誤解しているあなたを僕は見過ごせません!」
「いやいや誤解してるのはお前たちだろ」
「違います!!いいですかみょうじさん、黒田くんは」
「ああああああああああっとぉ今坂道に巻ちゃんがいた気がするぞぉぉぉ!!?」
「俺も見えたぜ尽八!あれは絶対裕介くんだ!ってことでこれでも食っとけよ泉田!(ズボォッ)」
「アブッフォオッ!!」
「っにしてんだヨきたねえなァ!!」
「大丈夫か泉田くん!!」
「お前たちさっきからうるさいぞ。もう少し声を抑えろ」
「そうだな!そうだよなフク!よしもう学校に着くまで誰も喋るなよいいな絶対だからなフクが怒るからな!」
「寿一が怒るんならしかたねえよな?」
「お、おう?」
「チッ」
「わか、わかりました…ゲホッ…」
「……んだよさっきの茶番はヨォ」
「茶番と言うなそして感謝しろ荒北!なまえのやつ、とんでもない勘違いをしているぞ!」
「ハァ?……そういやライバルだとか好きなのは違う奴だとか言ってたな…」
「あいつ、多分黒田が好きなのはおめさんだと思ってる」
「ハアアアア!?なんで!?」
「経緯や理由は知らんが、そうとしか考えられない。しかし俺たちはな、ややこしいし少々面倒だがこのままにしておく方がいいと思うのだ」
「意味わっかんねーヨそんなもん教えてやらあいいじゃねーかもう隠す必要もねーだろ大体誤解されたままじゃ黒田がかわいそーだろ!」
「逆だぜ靖友、よく考えてみろ。黒田が本当は自分を好きだったと知ったらなまえはどう思う?お前を気にしてさっきの接し方を後悔してしまったり、黒田と距離を開けようとしちまったらどうする?黒田はどう思う?」
「…………」
「それに、このままにしてた方が面白いだろ?」
「ざっけんなてめえらそっちが本音だろォ!!」
結局その後もなまえが真実を告げられることはなかったとか。
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