よそでやれ | ナノ


最後のご奉仕  



「あー、疲れたァ…」

クタクタになっちまった体を引きずり部屋へ向かう。後夜祭だなんだとほとんどの連中が出払ってて、いつもよりも静かな寮内。最後だし来ればいいのにと言われたが、それよりも大事な用事があるからと断った。

『やす、ちょっと耳を貸せ』

出し物を決める時にした約束、ちゃんと覚えてるよな、なまえチャン。そう思いながら部屋のドアを開けた。

「ただい」
「お帰りなさいませご主人様」

俺の言葉を被せるように飛んできたのは、どこか不機嫌そうな声。部屋の真ん中で正座しながら俺を見るなまえは、日中俺が嫌々着ていたフリッフリのメイド服だ。くっそやっぱりアホみたいに可愛い。今日散々見てきたはずなのに他のやつらとは段違いだ意味わかんねえメイド服すげえ。

『今回頑張ってくれたら、その日の夜、俺がやす専用メイドになってやるぞ』

約束通り部屋で待っててくれてたみたいだが、少しだけ気になるところが。なんでこいつ、こんなブスッとしてんだ?

「…ナァニなまえチャン。随分不機嫌そうじゃナァイ?」
「ご主人様の気のせいです」
「ふーん……嫌ならこんな約束しなきゃよかったじゃねえか」
「別に嫌なわけじゃ…それに、こうでもしないとやすが頑張ってくれないと思って」
「敬語」
「っ…嫌なわけではないです」

今度は腹立たしそうに俺を睨み付けてきたなまえ。可愛いやつ。けど、ならなんでそんな不機嫌なんだ。俺ちゃんと頑張ってただろ。多分。

「…ただ、」
「?」
「……思ってたより、ご主人様、人気だったから…」

え、なにそれ。

「………ヤキモチ?」

途端にカアッと真っ赤に染まったなまえの顔を見て、なんかもういろいろぶっ飛んだ。

「…お、まえ…さあ…」
「わ、分かってるんです!それがご主人様の仕事だし、役割だし、割りきらなきゃって、分かってるんですけど、」
「可愛すぎ」
「おわっ、」

ほとんど投げ飛ばす形でベッドの上になまえの体を転がした。なんだよこいつ、妬いてたのかよ、他の女相手に。全然顔に出してなかったくせに、内心そんな不機嫌になるくらい妬いてたのかよ。可愛すぎかよふざけんなよ。いつもは人のこと散々妬かせてくるくせに。それを態度に出したら呆れるくせに。

知ってんだろ、俺がわけわかんねえくらいお前のことしか見てねえこと。なのに不安なわけ?妬いちゃうわけ?だとしたらさァ、俺らほんとに似た者同士だよな。

「んふっ、あ、ごしゅ、ゃ、」

可愛い。可愛い。なまえ。もう、ダメだ、好きだ。好きだって気持ちが大きくなりすぎて、おかしくなる。何度か感じたことがある。たまに、好きすぎて、ぶち壊したくなる。こいつを。

唇を無理矢理こじ開けて舌を捩じ込む。ドロッドロで、熱くて、なまえの味がする。頑張って舌を絡ませようとしてくるとこも可愛くて、嬉しくて、一瞬だけ眩暈がした。どんどん溺れてってることにはとっくに気付いてる。それは多分こいつも同じなんだろう。このまま二人してどんどんダメになってくんだろうな。それでも、分かってても止められない。愛することをやめられない。

「はあっ、は、ご、しゅじ、しゃま…っ」
「…も、いいから…名前、呼んで」
「んっ、はあ、や、やす、」
「違う、ちゃんと呼んで」
「…やす、とも?」
「もっと」
「…靖友、靖友、」
「もっと、呼んで、なまえ」
「靖友、や、すとも、ん、やすとも、」
「っ…なまえ、」
「ひっ、あ、やす、とも…!」

ゾクゾクする。名前を呼ばれる度に、背筋が震えて、喉がひくついて、息が上がる。はあ、と吹きかけるように耳元で息を漏らすと可愛い声が飛んできた。背中に回された腕にどうにかなりそうで、誤魔化すようにまたたくさんキスをする。触れるだけのキスだからか、物足りなさそうに俺を見る目が、愛しくて仕方ない。

「…何、その目」
「!」
「言わなきゃわかんねえヨ、なまえチャン」

挑発するように笑えば、また悔しそうに睨み付けてきて、でも、その目はやっぱり俺を求めてる。

「た、りない」
「なにが」
「…靖友が、足りない。もっと欲しい」
「………」
「もっと、もっと靖友で、いっぱいにして?」

ただでさえいっぱいいっばいだったってのに、その瞬間理性なんかぶっ飛んで、

「…よくできましたァ」

無我夢中になって、その唇に貪りついた。





160615

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