「バニーちゃーん、休憩時間でーす!」
「!」
カランカランとベルを鳴らしてバニーちゃん…もといしんを呼んだ。接客中だった女の子たちに軽く会釈をしてからこちらへやって来るしん。残念そうな声を漏らす彼女たちには悪いことをしてしまったな。
「ごめん、ちょっとタイミング悪かったか」
「いや、大丈夫だよ。もうすぐ終了時間だったし。それより、さっきいいこと聞いたんだ」
「いいこと?」
「ああ。ついてこいよ、支配人」
「おう!」
ニヤリと笑ったしんの顔はいつもなら嫌な予感しかしないけど、今回はなんだか面白そうだ。同じようにいたずらに笑って大きな手を取った。
「射的チャレンジ…?」
「時間内にすべての的に当てることができたら景品がもらえるらしいんだ」
「へえー…すぐバキューンポーズするから勧められたんじゃないか?」
「はは、かもな」
やってみようぜ、と二つ渡されたゴム鉄砲の一つをなまえに手渡した。それにしても懐かしいな、この感触。よく子どもの頃作ってたっけ。
いつの間にやら増えていたギャラリーにより、教室内は熱気を帯びていた。ただでさえこんな格好してるから余計だろうな。時折聞こえる黄色い声援を背に受けながら、隣でどこか不安そうななまえを見てつい笑っちまった。
「そんな固くなるなよなまえ、ただのゲームだぜ?」
「んー、そうだけど…まあ、しんの足を引っ張らないように頑張るよ」
「何言ってんだよ、むしろ逆だ」
「逆?」
「失敗したって俺が必ず仕留めるからさ、おめさんは安心して自由にやれよ」
ぽん、と頭を撫でてやると、今度は安心したように笑ったなまえ。
「制限時間は1分です!それでは…スタート!」
ストップウォッチが押されたと同時にゴムを飛ばした。一発目から見事命中。なまえの方も、頑張っていくつかの的に当てている。こりゃあ思ってたよりも早くクリアできそうだな。
みるみる的は倒れていって、あっという間にあとひとつ。ゴムもラス1か、これできっちり決めねえと。
「残り5秒です!」
「おああっ!!ごめん外れた!!」
「気にすんなよ、っと!」
「「「おおおお!!」」」
「ジャスト一分!」
「さすがだぞしん!」
最後の的に当てたと同時に鳴り響いたタイマー。なまえと豪快にハイタッチを交わすと、さっきよりも増えていたギャラリーから大きな拍手と歓声が飛んできた。
「お、おめでとうございますー!こちらが景品になります!」
「あ!」
「お?」
「お二人でどうぞ!」
ゴム鉄砲を返すと、代わりに渡されたのはピンクとブルーの可愛らしいうさぎのキーホルダーだった。恐らく手作りだろうな。俺の手を覗き込むなまえの顔も、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「可愛いなあ」
「だな……ん」
「えっ、俺がブルーでいいの?」
「ああ。俺は今日はバニーちゃんだからな」
「あははっ!そういうことか。ありがとう、バニーちゃん」
「どういたしまして、ご主人様」
支配人なんだけどなあと首をかしげたなまえの頭を、もう一度撫でておいた。
160525