くのいちから買い物に付き合って欲しいと頼まれた。ものすっごい笑顔で。他ならぬあの子からのお願いだ、たとえふて腐れた態度で言われていたとしても一つ返事で了承していただろう。妹馬鹿だのなんだの好きに言われても構わない。

だから、今日まですごく楽しみにしてて、張り切ってお金も多目に持ってきて、なのに、


「……なぜ君がいるんだろうね真田幸村」
「本当に奇遇ですねなまえ殿!まさかあなたもここに現れるだなんて」
「はっはっは本当に奇遇だねびっくりだよそれじゃあ僕は予定があるからこれで…」
「あっ、お待ちくださいなまえ殿!」

彼女と待ち合わせていた場所までもう少しだったというのに、よりにもよってこの男と出会す羽目になるとは。

笑顔を輝かせてにこにこ僕を見る真田幸村をさらっとかわし、適当に切り上げた…つもりだったのだけれど。左手首に違和感。

「痛いから離してくれるかなあなんだろうこの手は」
「せっかく久しぶりに会えたのです。少しお茶でもどうですか?」
「せっかくのお誘いなのに悪いが手持ちが少なくてね」
「お代のことならばこの幸村にお任せを!」
「そうじゃないよ察して。行きたくないんだよ察して」

嫌味なんかどこ吹く風。どこまでも前向きな真田幸村に苦笑いした。というより僕最初に予定あるって言ったよな。なんで普通にお茶誘おうとしてくるんだ。話聞いてるのか。

「真田幸村…さっきも言ったけど、僕には予定が」
「それではそれまでに済ませてしまいましょうか」
「そういう問題じゃないから!」
「えっ」
「なんでびっくりしてるの僕がびっくりだよ。悪いけどまた今度にしてもらえるかな?人と待ち合わせしてるんだ」
「そうですよ幸村様!今日はもうお帰りください!」
「ほら彼女もそう言って…あれ?いつの間に?」
「ついさっきです!」

なんとか離れようと言葉を並べていると第三者が現れた。なかなか来ない僕に痺れを切らして飛んできてくれたのだろう、少し怒った顔をしたくのいちがいた。

まさかの人物の登場に驚いたのか、真田幸村は目を見開いている。ふっ、羨ましいだろう。

「なんと、待ち人とはそなたのことであったか…」
「まさか幸村様が近くを通っていたなんて思いませんでしたけど、今日はダメですよ!あたしが先約なんですから」
「たしかに理にかなってはいる。しかしここで折れるわけにはいかぬのだ!」
「なんでそうなるの!」
「この機を逃せば次いつなまえ殿に会えるのか分かったものではない…ただでさえ会えぬというのに」
「まあその気持ちは分からないでもないですけど…」
「いやいや、真田幸村はともかく君には結構会ってるつもりだけど」
「師匠!しっ!」
(なにそれ可愛い)
「やはり、そなたの方が会えているではないか!」
「それとこれとは別です〜いくら幸村様といえど、今日は譲れません!」
「されど幸村も譲れぬ!」
「譲れぬ!じゃないよ何回でも言うけど今日はこの子と約束してたの!ということで君が譲るんだ真田幸村!」

人差し指で真田幸村の額を数回つつきながらそう言うと、さすがに堪えたのかうっ、と口をつぐんだ。

よし、これでようやくくのいちとお買い物に……って、

「こ、こら真田幸村!それはずるいぞ!そんな子犬のような目で見るな!」
「しっ、しかし、私だって…」
「幸村様!男のくせに涙目なんて反則ですにゃあ!」
「僕がいじめたみたいじゃないか…ああああああもうわかったからぷるぷる震えるな!お茶だけだからな!」
「へ、師匠!?」
「えっ、ほ、本当ですか!」
「ごめん、お茶だけ三人でもいい…?」
「……可愛い髪飾りあったら奢ってくださいね」

半泣き面から一変、また目を輝かせてにこにこしだした真田幸村を横目に、くのいちにこっそり耳打ちする。頬を膨らませながらも(可愛い)しぶしぶ頷いてくれた。

(お金多目に持ってきててよかったな…)

その後、真田幸村が結局買い物にも同行してきたということは言うまでもない。




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