※病み北注意




「あの、なまえ先輩いますか?」
「あー、悪ィ。今あいつドリンク入れに行ってっからさァ…なに?差し入れ?」
「あ、はい!その、最近好きだって言ってたんで…」

二年の女子が持ってきたのは可愛らしくラッピングされたお菓子。手作りだろうなァ。

「俺でよかったら渡しとくケドォ?」
「ほ、ほんとですか?お願いします!」

嬉しそうにはにかみながら渡されたそれを受け取る。もう一度お願いしますと言った彼女は、恥ずかしそうにパタパタと走っていってしまった。

姿がすっかり見えなくなってしまってから、そばにあったゴミ箱にゴミを捨て、俺も練習に戻った。



 






「聞いてんのかヨォなまえチャァン」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてねーじゃんソレェ…」

風呂上がり。いつも通りなまえの部屋でのんびりダラダラと過ごす。やっぱりなまえのそばは落ち着くなあと思う。ずっと昔、それこそ子どもの頃からここは俺だけの特等席。俺だけの特権。俺だけの聖域だ。

だから誰であろうとそれを奪おうとするやつなんざ許さねえ。

「…それよりやす、俺になにか言うことあるだろ」
「なぁに?あー、今日まだ好きだって言ってなかったっけェ」
「そんなんじゃない」
「今日も大好きだヨなまえ」
「わかってるんだろ、はぐらかすな」
「………」

声のトーンが下がる。あ、怒ってるなァ、と他人事のように把握してから、倒していた体を起こした。真正面から見つめるなまえの顔はやっぱり怒っている。なんだ全部知ってるんじゃねーか。

「…だぁってさァ、手作りだぜ?得体の知れねーモン入れられてたらどうすんだヨ。むしろ感謝してほしいくらいだ」
「なら先週捨てたキーホルダーはどう説明するつもりだ?」
「………」
「…頼むからもう止めてくれよ。お前は嫌いなのかもしれないけど、俺の彼女なんだぞ?」

なに考えてるんだ、とため息を吐かれた。なんだ、じゃあ本当に全部全部知ってたのか。今まで俺が代わりにもらってた差し入れは全部捨ててたことも。プレゼントだってこっそり盗んで捨ててたことも。

でも一つだけ分かってねーよなァ?一番大事なこと勘違いしてるよお前。

「いつから気付いてたのォ?」
「最初から気付いてた。彼女にはバレてないけど、もうそれも時間の問題だ」
「なんでバラさないワケェ?バラせばあいつが俺に渡すこともなくなるだろ」
「…彼女にお前を嫌ってほしくない」
「ナニソレ」
「当たり前だろ、大事な幼馴染みなのに」

出たよ“幼馴染み”。なんでそこには気付かねえのかなァ。

「…なまえってさァ、どーしてそんなに鈍チンなんだヨ」
「どういう意味だ?」
「俺がこんなに嫌がらせしてるの、あの女が嫌いだからだと思ってんだろォ?鈍すぎて笑えてくるぜ…」
「……やす?」

そっと俺より少し小さな体を抱き締めた。なんの抵抗もしないなまえ。あの女が見たらどれほど羨ましがるだろうなァ。こいつのことだ、きっと大事に大事にしてるから、キスとかもまだなんだろ。初めての彼女だっつって喜んでたもんなァ。ドロッドロに優しくして甘やかして、顔真っ赤にしながら好きだなんて言って、


やべーな、想像しただけで腸煮えくり返りそうだ。

「いっ…やす!?」

さらけ出された首筋に思いきり吸い付いた。ひとつ、ふたつ、みっつと、あっちこっちに痕を残す。さすがにまずいと感じたのか、なまえが両手使って抵抗してきた。けどもう遅い。

「っ、いい加減にしろ!」
「……ハッ、キレーに付いたァ…」

これ、彼女が見たらなんて言うかなァ。そう言って首筋に散らばる朱をなぞった。まるで俺のモンみたいだ。そう思うとさっきの怒りが幾分かすり減った気がする。

彼女だのなんだの、好きにすればいい。好きに出来るんならな。ただ最後には必ず気付くんだよ、自分に誰が必要なのか。自分が誰のものなのか。

バァカチャンなお前が気付くのはいつになんのかな。あんまり待たせすぎんなよ、我慢できなくなっからさァ。




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