10月25日 もうすぐ世間はハロウィン

このシェアハウスに来てからもうすぐ一年が経とうとしている。初めは転勤が理由で転がり込んだだけだったが、今ではあんなに気難しかった同居人とも上手くやれている、と思う。思いたい。うん。この家を紹介してくれた遠い親戚のおじさんこと管理人さんには本当に感謝している。

最寄り駅へ行くには自転車で30分。最寄りのコンビニへ行くには自動車で40分という超ド田舎。さらにすぐ近くには大きな山があり、窓を開けていると野性動物が我が物顔で簡単に侵入してくるくらいだ。お前ら危機感なさすぎだろおい。まあこの長い月日が僅かながらも俺たちの間に信頼関係を生んだと思うが。当時はすっげえビビったし食料盗られるしで天敵でしかなかったけどな。今では可愛がる対象でしかない。

野性動物以外にも、俺が来る前からここで管理人さんのペットとしてわんことにゃんこが一匹ずつ飼われている。名前はそのままわんことにゃんこだそうだ。初めは三回くらい聞き直したが何度聞いても変わらなかった。ネーミングセンス仕事しろ。

最初こそ警戒心丸出しの二匹ではあったが今では俺のこと大好きだから家から出ようものなら一緒にぎゃんぎゃん吠えてくるし、帰ってきたら一番目抱っこ権を巡って壮絶なバトルを繰り広げている。ちょっと怖い。だがやっぱり好かれるのは悪い気しないし嬉しいしそんな二匹が俺も大好きだ。

「わんこー、にゃんこー、」
「わん!わんわん!」
「にゃー?」
「おーよしよし、そろそろ尻尾千切れそうでこえーぞわんこ…」
「わふっ」
「ははっ……今までありがとな」

二匹を一緒に抱きかかえ、ぎゅうっと抱き締める。いつもなら嬉しそうに頭を押し付けてくるくせに、今日は微動だにしない。なんだ、言葉の意味がわかったのか?

「……来週か」
「あっ、はい。早いもんで」
「お前ならきっとどこへ行こうと上手くやれるだろう。少し早いが、健闘を祈る」
「健闘って……まあ、ありがとうございます、元親さん」

ほとんど荷物整理の終わっている部屋を見て声をかけてきたのは、同居人その1の元親さんだ。個性的過ぎるキャラに最初はどう絡むのが正解なのか四苦八苦したが、なんとか打ち解けることができた。やってきた当初の俺ならまさか普通に会話できるほど仲良くなれるだなんて思わなかっただろう。

来週で丁度一年。なんの偶然か、その節目である11月からまた転勤が決まってしまった。なのでこのシェアハウスともお別れなのである。そのことが決まったのはつい最近。管理人さん、そして同居人に伝えると驚きはしたものの、頑張れよと応援してくれた。本当に、いいところに来たものだ。思い返せば楽しかったなあ。最初の数週間はすっげえ引っ越ししたかったけどそれもいい思い出だ。

「ただいまー」
「お帰りなさい、元就さん」
「ただいまなまえ……ずいぶん綺麗になったね。整理整頓得意だったっけ?」
「元就さんとは違うんですぅー俺がいなくなってもちゃんと部屋掃除してくださいよ?」
「うーん、大変だろうけど、まあ、努力するよ」
「ぜってー嘘だ…」

管理人さんこと元就さんが帰ってきた。この人とはシェアハウスに来る以前から親戚の集まりでもたまに会ってたから、最初はよくつきまとってたなあ。だって話す相手いないしシェアハウスなんて初めてだしで不安で不安で。本当にしつこいくらい、部屋にも入り浸ってたくらいなんだが、それでも優しい元就さんはいつでも俺を歓迎してくれた。アドバイスだってたくさんくれた。それが理解しやすかったかと言えばまあ分かりにくいところもあったが、それでもおかげでずいぶん暮らしやすくなったのは確かだ。住居も提供してくれたし、一番感謝してる。

「まあでも、まだ一週間ある。忙しいだろうけど、ほどほどにね」
「はい!ありがとうございます」

そういえば、同居人その2がまだ帰ってきてないな。まああの人は普段から家にいることの方が少ない人だし仕方ないか。元親さんと違い、あの人とはきちんと打ち解けられていたのか未だに不安だが、来た当初よりは話せるようになった、と、思う。自信ないけど。

二人が部屋を出て、扉が閉まる音が静かな部屋に大きく響いた。腕の中にいるわんことにゃんこは未だ動かず。少し苦しかったのだろうかと下ろそうとすると、させるかとばかりにしがみついてきた。なんだそれ超可愛い。

「なんだよー、寂しがってくれてんのかー?」
「…………」
「……あ?違う?腹へってんのか?」

そういえばもうすぐ夕飯の時間だったか。時計をチラリ見れば短い針はもうすぐ7を指そうとしている。とりあえずご飯ご飯。

残り一週間。こいつらともたくさん思い出を作れるといいな。まあ寂しくはなるけど、会おうと思えば転勤したあとも会えるからな!ただ、毎日毎日共に過ごしたこいつらや彼らと離れるのが寂しいだけ……考え出したらネガティブになる。やめだやめだ。

気を紛らそうとテレビをつけると、人気の女子アナが猫耳をつけてテンション高々に特集をしていた。

「……そうか、もうすぐハロウィンか」

そんなことをぼんやり考えながら、ペットフードを取り出した。










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