先生と別れたあの日から、数年が過ぎた。赤毛くんは当時の僕と同じくらいの年になって、より逞しくなった気がする。まあそれでもまだまだ子どもなことには変わりないんだけど。
そんな僕らも、今は風魔忍軍の戦闘部隊として任務に同行することが増えた。どちらかと言えば僕は諜報部隊の方が好きなんだけど、反対に赤毛くんはこっちの方が性に合ってると楽しそうに言っていたことを思い出す。赤毛くん、本当に強くなったもんなあ。
体も大きくなって、いつの間にか背も僕と同じくらいになって…その内あっという間に抜かされてしまうだろう。力の差だって、今はまだなんとか僕の方が強いけど、それもいつまで続くかわからない。一応兄貴分として手本になりたかったんだけど、普通に立場逆転しそうで笑えないな。
とにかくどんどん立派になっていく赤毛くんではあるけれど
「…あ、やっぱりここにいた」 「……なまえ…」
お兄さんが呼んでいたので探していると、忍犬たちの小屋にいた赤毛くん。今日だけじゃなくてよくここに来てるんだよねこの子。見た目や力がどれだけ成長しても、動物が好きなところは変わらないらしい。それが少し嬉しいし、可愛いなと思った。
「お兄さんが呼んでたよ。急いでないとは言ってたけど、出来るだけ早めにね」 「………」 「それにしても好きだね、ここ。仲良しの子でもいるの?」
僕の言葉になんら反応せず、近くにいた狼の頭を撫でている。その子のことが好きなんだろうか。狼の方も嬉しそうに自分から寄り添っている。
そっと赤毛くんの隣に座ると、ようやく僕のことを見てくれた。相変わらず何を考えてるのかはよく分からない。感情を悟らせないのは忍びとしては必須能力だけど、それにしたって分からなすぎるからすごいよなあと思った。
「まあみんな可愛いし、癒されるもんねー…うわっ」 「!」
僕も近くに寄ってきた忍犬を撫でると、急に飛びついてきた。そのまま口やら頬やらを舐めてきたので、慌てて抱っこをして引き離す。するとさっさと別の場所へ走っていってしまった。
「びっくりしたあ…久々だから嬉しかったのかな」 「……頭領が言っていた」 「え?」 「奴らが唇を舐めてくるのは、好きだ、と伝えたいからだそうだ」
ぽつりとそう言って、さっきの忍犬を見つめていた赤毛くん。そうなんだ、そんな習性が…というかお兄さんと二人でそんな話することもあるんだなあと、そっちの方が驚きだ。
「この子達の愛情表現は分かりやすいんだね。しかも可愛い」 「分かりやすい方がいいのか?」 「へ?そりゃ、まあ…分かりにくいよりは分かりやすい方がいいとは思うけど」
まさか食い付くとは思わなかったのでまた驚く。あくまで僕の考えだけどね、と続けて、そのまま立ち上がろうとした。
瞬間ぐっと腕を引かれて、気付けば目の前には赤毛くんの顔が。
「えっ」
ぺろりと唇を這ったのは、さっきの忍犬じゃなくて赤毛くんの舌だ。状況を把握出来なくて言葉が出てこない。文字通りぽかんとしていると、赤毛くんは無感情な顔をしたまま、これで分かったか?と聞いてきた。分かったかって、分かんないから混乱してるんだけど。
「……君が僕のことを好きなのはとっくに知ってるけど」 「…………………違う」 「えっ、あっ」
少しだけムッとした顔を見せたかも思うと、姿を消してしまった。違うって、何が違うんだろう。やっぱりよく分かんない子だなあと首をかしげた。
(ちゃんとお兄さんのところに行ったかなあ)
160125
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