「ちょっ、と、小太郎…!?」 「!」 「ん?…わ、女の子じゃないか」 「誰よその隣の男…!!」
小太郎の元で一夜過ごした後、彼と共に小田原城へと訪れていた。懐かしいなあと歩みを進めていたなまえは、赤を基調とした服を身に纏った女性と遭遇。ふうむこれは別嬪さんだ、小太郎も隅に置けないななどと少しにやつきながら小太郎を見たなまえ。そんな彼の心情を読み取った小太郎は呆れた顔をしていた。
「何を馬鹿な事を考えている」 「バレたか」 「ちょっ、ちょ、ちょちょちょちょちょ…!」 「あ、」
こそこそと話す二人を見かねて、女性…もとい甲斐姫は小太郎をなまえから引き離した。そのままなまえとの距離をあけ、ひそひそと小太郎に話しかける。
「はあ…また不可解な勘違いをされるであろう」 「なにがよ。ていうか誰あのイケメン!あんな人と知り合いだったんなら早く紹介しなさいよお!」 「紹介したところでうぬには靡かぬぞ、あの男」 「やってみなきゃ分かんないでしょ!?ほら、分かったらさっさと紹介して!」
……そんな二人のやり取りを遠くから見つめていたなまえの顔はやはりにやにやといやらしい笑みを浮かべていた。小太郎は再びため息を吐き、甲斐姫の首根っこをつかんでなまえの前に差し出した。
「ひぎゃあ!ちょっ、小太郎!!」 「この子犬がうぬと遊びたいそうだ」 「子犬?」 「はーなーしーなーさーいーよおおおおお!」
小太郎の手により無理矢理宙に浮かされている甲斐姫は、大声で叫びながらじたばたと暴れている。そんな彼女の様子をしばらくポカンと見ていたなまえは、やがて吹き出した。
「はっはははははは!ほんとだ、子犬みたい!」 「んなあっ!?酷い!あたしは歴とした乙女ですー!」 「ははは…小太郎くん、離してあげなよ」 「え、うわっ…!」
なまえの言葉を聞くや否や、その高さのまま手をパッと開いた小太郎。甲斐姫の体は重力に従い地面に落ちようとしたが、それを食い止めたのはなまえだった。
「あっぶないだろ小太郎くん…あー、大丈夫?」 「…は、い…」 「お嬢さん、お名前は?」 「っ、あ、あたし、甲斐です!甲斐って呼んでください!」 「甲斐ね……僕はなまえ。よろしく、甲斐ちゃん」 「なまえさん…え、なまえって、え、あ、あの伝説の忍びとかいう、あの!?あのなまえさん!?」 「お?僕いつの間にか伝説になっちゃったの?」 「何を今さら…それよりも、いつまでそうしているつもりだ?」 「!!」 「あ、忘れてた」
そういえば、という風になまえは甲斐姫を下ろしてやった。彼女のような若者にはもはや伝説と化しているなまえの存在。そんななまえに出会えた興奮で忘れていたが、実は小太郎に落とされかけたその時、なまえの手により抱き抱えられていたのだ。思い出したかのように顔を真っ赤にした甲斐姫を見て、なまえはまた笑っていた。
「はははっ、甲斐ちゃんかーわい。見た目によらず初なのか?」 「あまりからかわぬ方がよいぞ、すぐ噛みつく」 「だっ、だから誰が子犬だってのよ!なまえさんも笑わなーい!」 「ふふふふ…悪い悪い…」
いまだに堪えきれていない笑いを無理矢理抑え込み、改めて甲斐姫を見た。見れば見るほど可愛い。可愛いのだが、どうにもその露出が気になった。知り合いの女性はほとんどそうなのだが、この子もか、となまえは頭を抱える。そんな露出の多すぎる服を着て、戦闘中にはだけでもしたらどうするのか。自分の妹もなかなか露出が高めなのでつい心配してしまう。
「そ、そんなことより、なまえさんがなんで小田原に?小太郎と知り合いだったの?」 「僕この子の先輩なんだよ」 「あーあなるほど先ぱ…はああああ!?嘘でしょ!?」 「うっ、気にしてるのに…」 「ククク…」 「なまえさんの方が全然若々しいのに…!」 「うわああああああああん甲斐ちゃん好きいいいいいいいい!」 「ひゃああああああああ!?」
感極まってそのまま甲斐姫に抱きついたなまえ。小太郎や半蔵に比べるとどうしても年下に思われてしまうので、彼女の言葉が嬉しかったらしい。すぐさま小太郎にベリリと剥がされてしまったが。
「小太郎くんはケチだ。僕だって久々に女の子ときゃっきゃうふふしたいのに」 「勝手に閉じ籠っていたのはうぬの意向であろう」 「そうだけど…甲斐ちゃんまたねー」
不貞腐れるなまえを無視して歩きだした小太郎。赤く染まった顔もそのままに呆然と立ち尽くしている甲斐姫に軽く手を振り、なまえは小太郎の後を追った。
(あ…あんなの反則すぎいいいい!)
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