「…なんだ、ようやく出てきたのか」
「おうよ。久々にねー」

くのいちと別れた後、言葉通り風魔小太郎の元へと足を運んだなまえ。背丈は少しばかり劣るものの、実は小太郎よりも歳が上だというのはなかなか信じがたい。それはなまえ本人にとっても些か不満だった。どう見てもなまえの方が年下に見えるからである。小太郎の見た目が“あれ”だからというのもあるが。

「我に会いに、か?可愛い奴よ」
「違うっての。それに小太郎くんは行かなくても来るだろ?そうじゃなくて、」
「例の妹か」
「…まあ、うん」

あっさり見破られたことが悔しいのか、なまえは唇を尖らせ答えた。そんななまえが可笑しくて小太郎はその笑みをさらに深くする。しかし少し考えればすぐわかることである。そんなもの、彼の唯一の肉親であり、最愛の妹が関わっているからに決まっている。

「もう関わらぬようにするのではなかったのか?」
「気が変わったんだ」
「ほう…吹っ切れたか」
「そうじゃない。そろそろあの子もいい歳だし、忍びなんか止めて女としての幸せをだなあ」
「……つまり」
「僕があの子に相応しい相手を探すってこと!」
「お節介甚だしいな」
「ということで小太郎くんにも協力してほしいんだ」
「ほう?我に助けを求めるか…あのなまえが…クク…」
「うるさいなあ、僕大真面目なんだけど」
「半蔵が聞いても面白い反応を見せるであろうな」

それほどになまえの態度や言葉が小太郎には可笑しかった。まだ戦が日常茶飯事だった頃の昔の彼は、今現在の、どちらかと言えば感情豊かな忍びではなかった。まるで感情というものがないかのように、まるで殺戮機械のように、目の前の敵を殺していった。小太郎や半蔵級の忍びでさえ全盛期のなまえには全く歯が立たなかったのだ。今の力で勝負をすればわからないが、とにかく戦国乱世に名を挙げ始めた以前からなまえの恐ろしさを知っている小太郎たちからすれば、今のようになまえが自分に頼み事をするなどあり得ないのである。

そう考えれば、あの時に比べると随分性格も考え方も丸くなったものだと小太郎は思う。まるで二人して修行していた頃のようである。しかし悪く言えば当時よりも府抜けてしまった。小太郎にはそれがどうにも面白くなかった。そうしてしまったのも、きっとあの妹の存在だろう。

「まさかとは思うが…その婿探しの為だけに出てきたのではあるまいな?」
「え、いやあ、まあそれが大本命ではあるけど、それだけじゃない」

当たり前である。それだけのために出てきたのであれば妹馬鹿にもほどがある。いや、馬鹿であることには違いないのだが。何故ならばこの男、しばらくこの世から姿を消していたのにはとある事情があったのだ。その事情こそ、本当に馬鹿げている。

「ほら、隠れてる間会いに来てくれてたの小太郎くんだけだしさ。他のみんな今どうしてるかなーって」
「居所を教えず消えたうぬが悪い」
「それでも見つけ出すんだから小太郎くんってすごいよなあ。僕本気でびっくりした」

本当に、言葉通り、急に消えてしまったなまえ。柄にもなく焦りを感じたことは覚えている。すぐに見つけ出し一発殴り付けてやったことも。

「もう何年も見てないもんなあ…それに新しい顔も増えてるだろうし、その中にあの子にぴったりな子がいれば、と思って」
「…とんだ阿呆よな。懲りずにまた自らを傷付けるか」
「うるさい。とにかく、しばらく世話んなるぞ。空いた期間を埋めないと」

吐き捨てるようにそう言うと、小太郎のそばに体を寝かせたなまえ。どうやらもう寝てしまうらしい。

本心をひた隠しにしているなまえではあるが、そんなもの小太郎には通用しなかった。妹の婿探しなどきっとまったくの嘘。むしろその逆だろうとさえ思った。

この男、なまえが姿を消していた理由。それは妹であるくのいちへの強い強い恋慕を断ち切るためであった。




(どうせいの一番に会いに行ったのも、あの女なのであろう?)



131118
修正:181015