「ふむ…」 「なんて書いてあるんです?」 「まずは満足」 「おかしいな話が噛み合ってない」
にゃあん、と鳴いた猫の体を撫でまくる。すごく可愛い。人懐っこいんだなあ、初めましての僕に対してもすごくすり寄ってくる。
秀吉公から頼まれたお使いは、西方面にいる名だたる武将さん方へ書状を届けることだった。東方面はなんとかなったらしいが、短時間で済ませたいからということで西方面を僕に任せたということだ。そうして数時間かけて飛び回って、途中無駄に引き留められつつ(土佐とか中国辺りで)、最終目的地である九州に辿り着いた。
書状の内容は知らないけれど、恐らく全国各地に届けられているはず。何をするつもりなんだろうか。
「島津さん話聞いてくれないし…宗茂くん、書状なんて書いてあったか教えてよ」 「なまえ殿はまだ聞いていないのですか?」 「帰ってきてからのお楽しみじゃって言われちゃってね」 「ならば早々に帰れば分かることではないか」 「それは遠回しにさっさと帰れと?」 「なっ、ち、違う!そんなつもりで言ったわけでは…!」 「ふはっ!冗談だってばー可愛いなあギンちゃん」 「っ、貴様!」 「すみませんなまえ殿。これでも彼女に悪気はないんです」 「知ってる知ってる」 「気安く触るなこの不真面目忍者め!」 「なにそれひどい」
猫と同じように頭を撫でるとそう叫ばれた。別に声を大にして僕は真面目です!と言えるほど真面目って訳じゃないけどそんなぶっちゃけられるとさすがに傷付く…。
先に立花さんとこにお邪魔して、そのまま島津さんとこに来たんだけど、なぜかその道中についてきたお二方。まあだからといって問題があるわけではないから黙っていたんだけど、
「どうしたお嬢。いつもなら顔を見た途端にけしかけてくるくせに今日は大人しいではないか」 「ふん。立花も暇ではないのだ、そう毎度毎度馬鹿の一つ覚えのように斬りかかると思うな」 「ほう?」 「それに、このご時世に勝手な戦を起こせば御法度…つまらぬことで、立花の名を汚すわけにもいかぬ」 「わしとしては非常に退屈な案件でしかないが、懸命な判断ではあるな。さては、坊っちゃんに口酸っぱく唱えてもらったのか?」 「ふざけるな!私個人の判断だ!このような立花の飾りの指図など受けぬ!」 「飾りって」
戦はしないけど口喧嘩はするんだなあと微笑ましく見守る。こっちもこっちで相変わらず元気そうだ。
「にゃあ」
ふと鳴き出した猫。どうした?と撫でてやると、嬉しそうにすり寄ってくる。かーわーいーいー。
(あの子もこれくらい素直に甘えてきてくれたらいいのになあ)
なーんて、と自嘲気味に笑うと、宗茂くんとばっちり目が合った。なんかにやにやしてる。
「……なんだいその顔は」 「恋のお悩みですか、なまえ殿」 「はっ、」 「…何を言っているのだ貴様は…」 「猫を撫でておっただけでわかることなのか」 「宗茂くん……大丈夫か?」 「いえ、気のせいならいいんですが」
何やら意味深な笑顔が見えたもので、とにっこり笑った宗茂くん。そういえば聞いたことがある。九州には愛の伝道師とやらがいると。そんな馬鹿な。
「気のせいですー…ってか、書状書状。なんて書いてあったんです?」
とりあえず話を流そうと島津さんに尋ねた。すると、いとも簡単に返された、さっき渡した書状。
「えっ、読んでいいんですか?」 「百聞は一見にしかず、とな」 「……それじゃ遠慮なく」
ばっと書状を開いて目を通す。軽い挨拶から始まったそれは……招待状?
どうやら三日後の夜に、大坂城で派手に宴会をするらしい。
「……なるほど…」 「狙いはわからぬが、せっかく招待されたものを蹴るわけにもいくまい」 「我らも行くつもりだ」 「なまえ殿は、どうなさるんです?」 「んー、まだ直接誘われてないけど…」
こんだけ走り回されたんだから、お酒の一つや二ついただいたってバチは当たらないよね?
(それは終わりの始まりだった)
160111
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