最後に会ったのは真田幸村に勝利したあの日だ。それ以来の再会。僕はもう自棄というか開き直りというか、そういう気持ちの方が強いからへらへら笑っていられる。けどなんにも知らないあの子からすればそれすらも怒りを助長させるものでしかないだろう。

その証拠に、せっかくの可愛い顔が歪んでいて台無しだ。君には笑顔がよく似合うのに。

「…久しぶり。あの日以来だね」
「………」
「聞きたいんでしょ、真田幸村の件について」

逃げも隠れもしないよと笑いかけても、彼女の仏頂面は変わらない。ちょっと寂しいなあとか思ってみたり。自業自得なのにね。

「…たしかに幸村様の件もあります」
「……他にもあるってこと?」
「何であんなことしたんですか?あたしのため?」
「………」
「だとしたら、本当に余計なお世話。師匠に手伝ってほしくて教えた訳じゃないのに、裏切られた気分です」

そうだね、たしかに僕は君を裏切ってばかりだ。嘘に嘘を重ねて今まで過ごしてきた。この子のためだと言いながら、半分は自分のために。傷付けたくないし、傷付きたくないから。ほんと自分勝手だなあと笑ってしまう。

「ふはっ、お節介だった?ならごめんね」
「教えてください」
「へ」
「あの時、本気だったんですか」
「……本気?」
「あたしの気のせいじゃなかったら、師匠、あの時幸村様のこと本気で殺そうとしてた」

自然と笑みが消えたのが自分でわかった。本当に本気じゃなかったと言えば嘘になる。正直、恋敵を仕止める絶好の機会だったわけだしね。何も考えずに行動してたら、決闘だからと言い訳してサクッと殺ってたかもしれない。

それでもなけなしの理性が働いたのは、君が来たからだ。

「…まさか。そこまでする理由もないし」
「……そう、ですよね」
「ただ、本気でいかなきゃこっちが危なかったからさあ。強いねえあの子。ちょっと天然っぽいとこあるけど、お似合いだと思うよ」

なんて、今の僕にそんなこと言われても嬉しくないか。くのいちは困ったように眉をひそめるだけだった。

「それで?まだ聞きたいことあるみたいだけど」
「……甲斐ちんのこと、」
「えっ?甲斐ちゃん?」
「師匠って、甲斐ちんのこと好きなんですか?」

まさかの登場人物と質問内容に驚く。甲斐ちゃん?好き?どういうことだろう。どうしていまこの状況で甲斐ちゃんが出てきたんだろう。しかも好きかどうかって、そりゃ可愛いしいい子だし好きだけど、それとこの子になんの関係が?

「…えっと…うん、ごめん、やっぱり話が見えない。どういうこと?」

しばらくううんと考えてみたものの、やっぱりわからなかった。それを正直に伝えると、さっきよりも苛立ったような表情で睨まれる。そんな顔されても可愛いだけなのに。

「この前、見ました。甲斐ちんと仲良さそうに、甘味処で、」
「……ああ、あれか。あれはちょっとした甲斐ちゃんからのお礼というか…」
「この間会わないでって言ったのに」
「あー、それは…」
「あんなに寄り添って、嬉しそうに寝てましたね」

そうか、あの時の鋭い視線はこの子のものだったのか。てっきり小太郎くんだとばかり思っていたのに。

それにしてもなんだこの言い方。たしかに以前あの子には会わないでくれって言われたけど、その約束自体が一方的だし理由がわからないし理不尽だ。

けど、そんな理不尽な約束も含めて、この問い詰め方。勘違いしそうになる。そんなつもりもないくせに。

「…まあ別に恋人だとかそんなんじゃないけどさ。いいじゃん別に」
「!」
「あの時はちょっと眠かったから肩借りただけ。やましいことなんか一つもないよ。あったとして、君にどうこう言われる筋合いもないけど」
「…なんですかその言い方。自分は幸村様のことで干渉してきたくせに」
「じゃあなに、僕があの子のこと好きだって言えば協力でもしてくれるわけ?」
「っ、それは…」
「君は自分の方だけで手一杯でしょ。僕のことなんか放っといてよ」

…しまった、少し強く言い過ぎたか。これじゃただの八つ当たりだ。最低だな。

「あー…ごめんくのいち、ちょっと言い過ぎ…」
「あたしだってわかんない!なんでこんなこと言ってるのか!」
「!」
「でも、師匠があの子と一緒にいるのは嫌なんです!」

そう叫んだが最後、くのいちは姿を消した。

(……なんだそりゃ…)

へたりとその場に座り込んでしまった。追いかけようと思えば追いかけられるけど、出来ない。これ以上聞いて問い詰めたら駄目な気がする。僕馬鹿だから、ほんとに勘違いしてしまう。

怒りに任せて変なこと言うもんじゃないな。しかしこんな言い合いみたいな喧嘩するのなんていつぶりだろう。懐かしいけれど、あの頃は苦い思い出しかないからあまり思い出したくない。

どこに逃げたのかは知らないけど、真田幸村がここにいる以上いつかは戻ってくるだろう。その前に僕の方から退散しておくか。

「おっ、そこにおったんかなまえ!」
「!」
「ちっと頼みがあるんじゃが、聞いてもらえんかのう!」

地に降りた途端僕を見つけたのは秀吉公だった。頼み事ねえ、そんな気分じゃないけど…

「秀吉公の頼みを僕が断れると思ってるんですか?」
「そう言うと思った!頼みにしちょるで、なまえ」

手渡された謎の書状を見つめ、こっそり苦笑いした。



(ほんっと僕って優しいよね)


151211