「どうしたのかの、なまえ殿!」
そんなにまろと蹴鞠りたかったのかの!と嬉しそうに笑う義元公は間違いなく本物だ。あー、よかったよかった。
「信長公が全部気付いてたみたいで…安心しました」 「の?」 「いや、こっちの話です」
小太郎くんと別れて、そういえばもし最初から全部知っていた信長公が手を出していたらどうしようと思い出して走ってきた。まあここに匿わせてるんだし、心配無用だったかな。
「家康公は知ってました?信長公に気付かれてたって」 「おや、まさかわしを疑っておいでかな?」 「まっさかぁ。そうじゃなくて純粋に聞いてるんです」 「はっはっ、それは失敬…わしも、今なまえ殿から話を聞いて驚いておりまする。まさかとは思うたが、相手があの信長公であれば、あるいは…」
苦笑いする家康公は元は義元公の配下だったんだけど、色々あって今は義元公を匿ってもらってる。もちろん条件付きで。
こんなところに預けてるんだから身の安全は心配してなかったんだけど、家康公の言う通り、あの魔王が相手じゃ話が変わる。まあ気付いてて手を出してないってことはもう義元公のことは眼中にないんだろう。戦もないし余計そうだ。
「何やら難しい顔になっておるの…久しぶりに会えたのに、そのような顔は見たくないの!なまえ殿、再会を祝して蹴鞠ろうの!の!」 「いいですけど負けても拗ねないでくださいよ義元公」 「しかし…本当にお久しぶりでござるななまえ殿。出てきたという噂は聞いておったが、今までどこに?」 「それは企業秘密ってことで…あ、義元公行っちゃった」
恐らく鞠を取りに行ったであろう義元公を横目に見たあと、家康公の頭上…もとい天井へ視線を移す。バレてないとでも思ってんのかな。思ってるわけないか。
「ねー半蔵くん」 「…!」 「久しぶりなんだし顔くらい見せたらどうなの…あっ!」 「殿!なまえ様がいらっしゃったとは本当で…!」 「稲ちゃーん!!」 「きゃっ、なまえ様!?」
天井でじーっと僕を見ているであろう半蔵くんに声を掛けると、同時に現れたのは忠勝殿と稲ちゃんだった。黒髪美人!しかも僕のことを聞いて来てくれたらしい。可愛すぎか。抱擁の一つや二つ許されるはずだ。
「だからそんな睨まないでください忠勝殿」 「睨んでなどおらぬ。それに残念であったななまえ、もう稲には夫がいる」 「うっそほんとに!?稲ちゃんいつの間に人妻に…」 「いっ、言い方が不埒です!!そういうわけですので、早く離れてください!」 「ちぇー」
渋々離れると触れていた箇所をぱんぱんと埃を払うかのように叩かれた。ひどい。
稲ちゃんも忠勝殿も変わり無さそうで何より。あとは半蔵くん…なんだけど未だに出てこないな。失礼にも程があるぞ。しかしじとりと睨み付けていると気配が消えてしまった。あれ?
「逃げるなんてらしくないな…」 「それでなまえ様、今までどこへ行っていたのですか?殿も父上も心配していましたよ」 「稲ちゃんは心配してくれてなかったの?」 「えっ?あ、い、稲も、少しくらいなら…」 「何を言う、そなたが一番慌てふためいておったではないか」 「なっ、父上!?父上こそ寂しそうにしていたではありませんか!」 「ふはっ、親子揃って心配してくれてたんだね、ありがとう」
微笑ましいその光景を見つめながらそう言うと、家康公もまた微笑んでいた。徳川さんとこも楽しそうでいいなあ。
「…とりあえず義元公の無事も皆さんが元気なことも確認できたんで、そろそろ行きます」 「もう発たれると申すか。じきに夕食の準備も出来る。食べていかれてはいかがかな?」 「そうですよなまえ様!殿もこう仰っています、ぜひ!」 「ありがとうございます。でも今日はご厚意だけ…また後日、改めてゆっくりお邪魔させてもらいます」 「ふむ、急がれるのであれば無理には引き留めますまい…半蔵!」 「はっ」 「うお」
今日は他にも行きたいところがあったから、せっかくのご馳走だけどお断りしておこう。そうして了承してくれた家康公が呼んだのは、さっき逃げたと思っていた半蔵くん。ちょっとびっくりした。身なりはやっぱり少し変わったけど、鋭い眼光はそのまんまだった。
「城門まで、なまえ殿のお見送りを頼む」 「御意」 「え、いいですよそんなの。ちゃちゃーって帰りますから」 「いやいや、遠慮なさらず。またいつでも、足を運んでくだされ」 「なまえ様、またいずれ、手合わせ願います!」 「また参られよ。待っているぞ」 「あ、はい、また機会があれば…って半蔵くんやめて引っ張らないで」 「殿の命だ。反論は聞かぬ」
ずるずると引きずるように僕を引っ張る半蔵くんに苦言を呈しつつ、家康公たちに別れを告げた。あ、しまった義元公…まあいいか、今度ちゃんと相手してあげよう。
「……行ってしまわれましたね」 「殿、何故半蔵に見送りを?」 「なに…あやつも、我々と同じだということよ」 「待たせたのなまえ殿!いざ、尋常に…の?」 「よっ、義元様、なまえ殿はもう発たれましたぞ」 「ののっ!?」
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