道中見つけたしがないだんご屋でのんびりしていると、彼女は現れた。
「教えよ!愛とはなんじゃ!」
いや知らないよ、とは言えなかった。だってものっすごく綺麗な目で訴えてくるんだもん。さすがの僕もこんな可愛い純粋な子を無下にはできない。
さて、どう返そうか。どちらかと言えばそんなもんこっちが教えてほしいんだけどな。それらしい答えを出せば諦めてくれるだろうか。
「うーん、そうだねえ…すっごく難しい質問だなあ…」 「そちにもわからぬのか?」 「知ってそうな知人は知ってるけどね。まあこのご時世、元気にやってるかはわからないけど」 「縁起でもねえこと言ってんじゃねえよ」 「!」
突然飛んできた第三者の声。見知らぬお嬢ちゃんと一緒にそちらへ目をやると、そこに立っていたのは懐かしい例の知人だった。なんという偶然だろうか。
「おお、遅いぞ孫!もうだんごは全て平らげてしまったのじゃ!」 「え、お嬢ちゃんあのおじさんと知り合いなの?」 「誰がおじさんだ!イケてるお兄さんの間違いだろ」 「ははは、さぶいよ孫市くん」 「うるせえ。どっちかっつーとお前の方がおじさんだろ」 「殺すぞ孫市くん」
雑賀孫市。かの有名な鉄砲隊、雑賀衆の長を務める自称イケてるお兄さんだ。立場上彼のような傭兵は僕のことをよく思っていないことが多いのだが、孫市くんは違った。彼曰く、商売敵というよりは好敵手という認識を持ってくれているらしい。どちらにせよ敵は敵じゃんとは思いつつまあいいかと僕自身適当に対応している。
「戦があればお前にほとんど仕事持ってかれてただでさえ商売上がったりだったってのに、姿消したと思えば同じように戦も終わっちまって散々だぜ」 「それで今は子守して小銭稼ぎでもしてるのか?」 「俺だって好き好んでしてるわけじゃねえよ。ただこいつが引っ付いてくるだけだ」 「むむっ?そちは孫と知り合いなのか?ダチなのか?」 「うーん、ダチというかなんというか…まあダチってことにしとくか」 「そうなのか!では、わらわともダチじゃ!ダチのダチはダチ!なのじゃ!」 「えっ、なにこの子すっごい可愛いんだけど」 「ねえとは思うけど手ェ出すなよ?あの光秀の娘だぜ」 「!」
それはなんとまあ、またまた懐かしい名前が。しかしなぜそんな女の子が孫市くんと一緒にいるんだ?まさかあの光秀くんが子育てに関しては奔放主義だなんて思えないし…
「…孫市くん。もう遅いかもしれないけどちゃんと返してくるんだ」 「誘拐じゃねえよ!さっきも言ったろ、この嬢ちゃんが勝手に…」 「ちょっと世間知らずっぽいもんな…光秀くんきっと過保護に育てたんだろうなあ、絵に描いたような箱入り娘ってとこ?」 「ご名答」 「ダメだよお嬢ちゃん。ちょっと悪そうなおじさんに憧れちゃう女の子の気持ちもわからなくもないけど、このおじさん相手じゃちょっとの火傷じゃ済まないから早くお家に帰りなさい」 「お前は俺をなんだと思ってんだ!」 「む?孫は悪いおじさんではないぞ。孫はわらわの初めてのダチなのじゃ!」 「……要は孫市くんのこと大好きなんだね」
頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んだ。うん可愛い。女の子ってやっぱり大正義だと思うんだ。癒されるなあ。
つまりは、だ。この子は孫市くんを慕っていて、孫市くんもなんだかんだでこの子のことは大事に思ってるんだろう。そうじゃなきゃ光秀くんの娘さんがダチだなんて言葉覚えない。彼のダチだということを自称していて、それを孫市くんが否定しないということは、そういうことだ。いい関係だと思う。
「ただ一線は超えるなよ。いくら孫市くんといえど死なれると夢見が悪いからね」 「死んだら一番にてめえの枕元に立ってやるよ馬鹿野郎」 「お嬢ちゃんも、孫市くんと仲良くね」 「もちろんじゃ!…そういえば、そちはなんと申すのじゃ?まだ名前も聞いておらぬ」 「いやー僕は名乗るほどの者では」 「なまえっつー忍びだ。こんなんだがめちゃくちゃ強かったんだぜ」 「ほむっ!なまえというのか、よろしく頼む!」 「なんでバラすの孫市くん…ま、よろしくねお嬢ちゃん」
手をひらひらと泳がせ、腰掛けから立ち上がった。美味しかったなあだんご。さて、四国まであとどのくらいで着くだろうか。
「…あ、そうだお嬢ちゃん。さっきの質問、孫市くんならいい答えくれるかもよ」 「質問?」 「それは誠か!?では孫、わらわに教えよ!愛とはなんじゃ!」 「ためらわないことさ…って懐かしいなおい」 「…そういうことだから僕はそろそろおいとまさせてもらうよ」 「半笑いやめろよ恥ずかしくなってきただろ」 「気付くの遅いよー。じゃあねお二人さん!」
たんっと地面を蹴って二人と別れた。孫市くんのダチで光秀くんの娘さんか、面白い女の子だったな。まあ孫市くんも元気にやってるみたいで安心した。
愛とはためらわないこと、だって。僕にそんなことができたら、きっとそれはそれはひどく醜い愛になるんだろう。そんなものをあの子に押し付けるくらいなら愛なんていらない。ずっと頼れる師匠を演じ続ける方がいい。たとえそれが自己満足だとしても。
(溢れる涙はきっと気のせい)
140511
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