美味しい。いや、おねねちゃんの料理が美味しいのは昔から知ってたんだけど、うーん、変わらないなあ。一つ一つがこう、生きてるっていうの?活きてるっていうの?とにかくまあ要約すると美味しいんだよね。こんな料理を毎日食べれる秀吉公や夜叉ま…いやいや、清正くんや正則くんが羨ましい。
「んぐ…そういや、三成はどうした?あいつも会いたがっとったじゃろ」 「あー、あいつなら先に部屋に戻っとくって…なー清正!」 「…僕、呼んできますよ。呼ばれてたし」 「そうかい?悪いねえなまえ、頼んだよ!」 「はーい」
使用していた箸を置き、食事中断のごめんなさいをして部屋を出た。ん、待てよ?出てきたのはいいものの佐き…三成くんの部屋知らなくね?まあ城内の把握ぐらいちょちょいのちょいだけど敵城どころか秀吉公の城だしなあ、あんまり探索するのもあれだし…
うっかりしてたなあと踵を返そうとしたら奥から左近くんがやって来た。
「あれ、どこ行ってたの?」 「ちょいと殿のお部屋にお邪魔してたんですよ。どうでした?久しぶりの秀吉さんは」 「んまあ…みんな相変わらずでよかったよ。ここは本当に変わらないなと思ったし、安心した」 「それはよかった…おや、何やらいい匂いがしますな。そういえばもうそんな時間でしたか」 「そうそう、おねねちゃんがね、ご馳走作ってくれて…あ、そうだ。僕その件で三成くんのこと呼びに行こうとしてたんだよ。案内してくれないか?」 「殿の部屋ならあそこの突き当たりを左に行って、その奥の部屋ですよ」 「了解。ありがとう」
片手をひらひらさせて言われた通りの道を進んだ。なんだ意外と近かったなあと思いつつ、あっという間にたどり着いてしまった。
さて、ここで普通に入ってしまってもつまらない。こないだ官兵衛くんにしたみたいに、誰かに変化して入るかなあ。それとも気配を消してそっと近付いてみようかなあ……たぶん僕いまめちゃくちゃ悪い顔してると思う。
「……さっさと入ればよかろう、なまえ」 「なんだ、気付いてたの?」 「俺をなめるな」
なーんだ、つまらないな。すっと襖を開けて中を伺うと、襖とは逆の方を向いて座っている三成くんを発見。部屋に入り襖を閉めると、顔だけちらりとこちらに向けた。
「ふはっ、お待たせ」 「…いろいろな意味で待たせすぎだ、馬鹿」 「君の手厳しさも相変わらずだなあ…」 「それで、今までどこにいたのだ」 「あーっ、もう、みんなそれ聞くよね!どこでもいいだろ別に!そりゃ心配させてたかもしれないけどさあ、まさか僕こんなに心配されると思わなかったんだよごめんってば!」 「っ、急に大声を出すな!うるさいのだよ!」 「だってみんなしつこいから!」 「それだけ心配していたのだ!なぜその自覚がない!」 「うっ、それさっきも言われた…」
おかしいなあ、僕鈍感どころか敏感な方なんだけど。頭を掻いて誤魔化してみたけど思いっきり睨まれてしまった。怖い、すっごい怖い…じゃなくて、ご飯だご飯。当初の目的を忘れるところだった。
「まあそれはまた追々落ち着いたら話すよ。それより三成くん、おねねちゃんがご飯」 「やめろ」 「…え、」 「二人の時は、佐吉で、構わぬ」 「なんで?せっかく立派な名前…」 「城下町で再会して、そう呼ばれた時…ひどく心地よく感じた。もうそう呼ばれることも少なくなったというのに」 「………」 「その名で呼ばれると、昔を思い出す。お前とこうしていた日々を」
不意に腕を引かれた。そのまま倒れそうになった体を両膝で支えると、胸と背中に伝わる温もり。
「……懐かしいな。僕が夜叉丸くんたちに構いすぎた日は、決まってそうやって抱きついてきたよね」 「………」 「おっきくなったなあ…お兄さんは嬉しいぞ」 「ふん…成長したのは図体だけではない」 「へ…んむっ」
あれ、
「………ん?」 「いつまでも子ども扱いしていると、痛い目を見るぞ」
目をまあるくして呆然としていると、にやりと笑った佐吉くん。そうしてまた口元から聞こえる、可愛い音。
…おいおい嘘だろ。どこで覚えたそんな技。
「覚悟していろ。もう幼かったあの頃とは違うのだよ」
未だに頭が混乱している僕をよそに、佐吉くんは何事もなかったかのようにすたすたと部屋を出てしまった。
気のせい、じゃないよな。しかも二回もされた。接吻。いやいやさすがの僕もあれが初めてというわけではない。仕事で男娼として活動したこともあったし衆道に対してはなんの偏見もない。でも相手が悪い。だってずっと夜叉丸くんや市松くんたちと同じように、それこそ弟みたく接してきたつもりなのに。何がどうしてこうなった。
「…たしかに三人の中では一番甘えただったけど…」
とりあえず、秀吉公とおねねちゃんには謝っておかないと。
(思ったほど動揺してない辺り) (ずいぶん年を食ったなと嫌気がさした)
140203
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