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エルキュールの見た光の話 1/2 


セフィロス「ライラ。俺たちがこうして過ごすようになってから、もう5年が経つな」

ライラ「はぁ。確かにそれくらいは経つかしら」パスタクルクル

セフィ「その間ずっと躊躇って、踏ん切りが付かないままでいた。お前に拒絶されたらと、怖かった。英雄だなんだと呼ばれているくせに、情けがないと笑ってくれ」

ライラ「はぁ。別に人間なんだし怖いことくらいあるのも当然じゃないの」パスタモグモグ

セフィ「というわけで、ライラ。……俺と、結婚してくれ」指輪パッカーン

ライラ「はぁ。………………はぁ?」



ライラ「待って。今なんて、……結婚?」

セフィ「ああ。俺と結婚してほしい。ありきたりかもしれないが、一生幸せにすると誓う。だから」

ライラ「だから待って。結婚なの? 恋人を通り越して?」

セフィ「? 恋人だったから、そろそろ結婚をと……」

ライラ「付き合ってたの? 私たち」

セフィ「……………………え??」



セフィ「恋人だからこうやって、頻繁に食事を」

ライラ「手も繋いだことないじゃない」

セフィ「誕生日も2人きりで祝っただろう?」

ライラ「おめでとうは言われたけど、好きだなんて言われてないわよ」

セフィ「……………………」



セフィ「…………どうしたら良い?」

ライラ「私に聞かれても困るわよ」

セフィ(折角、定番のプロポーズシチュエーションをと思って、レストランを予約したというのに……)ショボン

ライラ「…………ん」

セフィ「これは……なんだ?」

ライラ「何って、私の左手だけど」



ライラ「恋人だったつもりはないけれど、貴方と組んでから5年も経ってるのは確かよ。その間、どうかと思うことも常識を疑うことも腹が立つことも鬱陶しいと思うこともあったけれど」

セフィ「思っていた以上に印象が最悪だな……」

ライラ「それでも私は貴方と一緒に過ごし続けた。きっとそれが、一つの答えよ」

セフィ「ライラ……」



ライラ「で、どうするのかしら?」








セフィ「というわけで、俺とライラは結婚する。報告は以上だ」

ザックス「いや、任務報告のついでに言うことじゃねーだろ! 何が『というわけで』なのか説明しろよ……ライラも! 素知らぬ顔すんなって!」

ライラ「行間で察して」

ザックス「察する行間もねーんだけど……? まぁいっか。とにかくおめでとさん、だな! ちょっとクラウドが気の毒だけど(ボソッ)」

ライラ「何か言った?」

ザックス「別にぃ?」



ルーファウス「話は聞かせてもらった」

ザックス「うわっ、なんだ!?」

ルファ「神羅の英雄、セフィロスの結婚──これほど話題性のあるニュースは無いだろう」

ライラ「はぁ」

ルファ「と、言うわけで式を執り行うとしよう。勿論、盛大に」

ザックス「結婚式ってことか?」

セフィ「結婚……式……?」



ライラ「どうしてそんなことをしなきゃいけないのよ」

ルファ「当然、社の利益のために決まっているだろう。ソルジャー部門として当社に所属している以上、ぜひとも貢献して欲しいものだが?」

ライラ「私たちは客寄せパンダじゃないわよ」

ルファ「それに、君だって誇らしいだろう? 英雄セフィロスの伴侶。世の全ての女性が羨む称号じゃないか。羨望の眼差しを浴びるのは、存外気持ちの良いものだぞ?」

ライラ「興味ないわ。私が結婚するのは英雄じゃなくて、セフィロスっていう名前のただの男なんだから。いちいち騒ぐことじゃないでしょ」

セフィ「(ライラのこういうところが好き、という顔)」

ザックス「(ライラのこういうところが好きなんだろうなぁ、という顔)」



セフィ「しかし、式か……。俺も特に必要は感じないな」

ルファ「セフィロス。君はライラの花嫁衣装を見たくないのかね?」

セフィ「……花嫁衣装」

ザックス「なんか風向きが変わった気がする」

ルファ「彼女は着る気など更々ないのだろうな。だが、業務だと言ったなら話は別のはずだ」

セフィ「………………」

ルファ「我が社の広告塔として、似合いのドレスを用意してやろう。生涯にたった一度……自分のために、いつより美しく飾られた花嫁を見たいと思わないか?」

セフィ「よし、式を挙げよう」

ライラ「ちょっと????」



ザックス「よっしゃ! こうなったら、披露宴の友人代表のスピーチはオレに任せとけよ!」

ライラ「貴方に頼むなんて、どうなることか……。クラウドに頼むから結構よ」

ザックス「いや、それ一番ダメなやつだろ」

ライラ「……? ああ、確かに……クラウドって人前で話すの苦手よね……」

ザックス「鈍感すぎてクラウドがますます気の毒になってきたんだけど、あいつこのニュース聞いて倒れないかな……」








エアリス「今日のお花も、売り切れ! うん、良い感じ、かな」

「号外でーす! 号外でーす!!」

エアリス「ん? なんだろ?」

女性A「セ、セフィロス様が結婚!? 相手は同じソルジャーのライラ・セレニティーですって!?」

女性B「セフィロス様と行動するなんて、どうやって取り入ったのかと思ってたけど、まさかこんなことになるなんて……!」

女性A「セフィロス様はきっと騙されてるのよ!」

エアリス「うーん、なんか大変そう。荒れる人、多そうだなぁ」



女性C「けど……記事のここ、見てよ」

女性A「何……? 『記者の「英雄セフィロスの妻になることについてどう感じるか」という問いに対して、ライラ氏は「セフィロスと結婚することは嬉しいと思うわ。英雄っていう枕詞は余計だけど」とクールな表情で回答』……」

女性B「『その回答を聞いたセフィロス氏の顔は、常の凛々しい表情からは想像もつかないほど緩んでいた』……」

女性C「『セフィロス氏は「ライラ氏のどこに好意を覚えたのか」という質問に対して、たっぷりと30秒ほど考える素振りを見せた後、「先程のように、カッコいいところだ」と答えた』だってさ」



女性A「カッコいいところか……」

女性B「正直、私たちには無理よね……」

女性C「なんかこれ読むと、仕方ないかって気がしてきたわ……」

男性A「ライラちゃんが結婚!? 相手は……セフィロスだって!?」

男性B「くっ……俺らが英雄に勝てるはずがない。仕方ないとは思うけど……」

男性C「ライラちゃんロスになる……俺明日会社休もうかな……」

女性A「あの人たち逆ナンして飲みにでも行こっか」

女性B「うん、そうしよ」



エアリス「なんだか大丈夫そう。ザックス、言ってたもんね、ライラはとっても良い奴、って」

ザックス「おーい! エアリスー!」

エアリス「あ。噂をすれば」

ザックス「噂? って、それよりも! エアリスにお願いがあるんだけどさ!」

エアリス「どうしたの?」



ザックス「花を買いたいんだ! 俺の親友の結婚式に、綺麗な花をいっぱい贈ってやりたいと思って! その日の商品、ぜーんぶ買い占める感じになりそうなんだけど、良いかな」

エアリス「うん、もちろん! ザックスのカッコいいお友達、喜んでくれるといいね」








シド「よお、ライラ! 久しぶりじゃねえか!」

ライラ「シド叔父さん。悪かったわね、急に呼び出すことになって」

シド「良いってことよ。まさか、バージンロードを一緒に歩けって言われるたぁ思ってなかったけどな」

ライラ「仕方ないでしょ。親戚は貴方くらいだし、他に頼めるような人もいないし」

シド「1stのアンジールなんかが名乗りを上げてたって聞いたぜ?」

ライラ「何が楽しくて、旦那の友人にエスコートされなきゃいけないのよ。意味がないでしょ」



シド「それにしても……ライラ。本当に良かったのかよ? テメェの親戚はオレ様1人。本来バージンロードを歩くはずだった親父は──」

ライラ「ええ。セフィロスに殺されてるわ。そんな相手と結婚だなんて、自分でもおかしいとは思うもの」

シド「…………」

ライラ「けれど、知ってしまったから……あの人のこと。そうやって生きるしか自分の価値を見出せなかったこと。あんな図体してるくせにまるで何も知らない子供で、常識も生き方すらも知らないんだってことを」

シド「……そうかい」

ライラ「……なんてね。神羅の英雄と結婚したなら、社内でもかなりの地位に登り詰められるでしょう。だからよ。私は今だって、神羅カンパニーを壊してやるって目的は失ってないわけで──」

シド「あー、はいはい。オレ様相手に誤魔化したって仕方ねぇだろっての」



シド「お前さんが決めたことだから、何も言うつもりはねぇ。とにかく、オレ様から言えんのは一つだ。
 ……幸せになってやれよ。遠いどっかで見守ってる家族が安心できるくらいに。それが、復讐なんかよりもよっぽど良い、一番の弔いってやつだろうからよ」



シド「っと、時間だな。行くぜ、ライラ」



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