MYOSOTIS - introduction ──まだ、立ち止まるわけにはいかないの。独りで呟いて、訥々と語って、我武者羅に叫んで、喉が擦り切れてしまうまで歌った。私は立ち止まれない。立ち止まりたくない。立ち止まってはいけない。 足を止めては死体と同じだろう。諦められて、たった一瞬の嘆きと共に棺に納められて忘れられる。そんなことに、させてはならない。 ──まだ、歩いていかなければならないの。 たとえ足をもがれようと、この目の前に道が続くのならば。光が照らす道が、遠く遠くまで延びているのなら。 進み続けなければ。それが夢を見るということだ。焦がれる甘くて艶やかな果実に手を伸ばして、私は私の望みを叶えてみせるのだ。そのためなら、どんな悪意だって飲み下してやる。 ──まだ、歌い続けられるはずでしょう。 足を失っても、道が閉ざされても、一つ音符が指先に触れるのなら。まだ歌える。 歌って、喉が潰れても歌って、私はここにいると伝えていける。この心は眠ってなどいないって、死んでなんていないって。 だからどうか──どうか、けれど、 「この歌すら誰にも届かなくなる日が来るのかしら」 暗い部屋で呟く。冷たく凍えてしまいそうな部屋はあまりに静かで、何の音も聞こえない。 閉ざされた棺は、やがて雪に埋もれてしまうのだろう。白い雪は音を吸い込んで、閉ざして、そして後に残るのはきっと優しすぎるほどの静寂だった。 喉を閉ざし呼吸を塞いで。私は、そうして死んだのだ。 Myosotis - 私を忘れないで |