春風駘蕩
今回は同級生パロにさせて頂きました!
入学式で一目惚れしてからもう3ヶ月。
俺は未だに彼女に片思い中だ。
あのツンデレとも形容し難い程に、冷たくて攻撃的な、正にツンドラともいえるお姫様に。
―――――――――――
「ねぇ、お昼一緒に食べようよ。」
今日こそは、と強く誓い、俺は四限目の金が鳴るのと同時に彼女を昼食に誘った。
彼女はというと、そんな俺を一瞥もせずに、ただ黙って黙々と窓の外を見ているだけ。
「ねぇ、帝人君。」
「……うるさい。あっち行って。」
「…………」
痺れを切らした俺が恐る恐る名前を呼んだというのに、返ってきた言葉はあまりに冷たい。
(結構勇気振り絞ったんだけどな…。)
3ヶ月前入学式で一目惚れして、同じクラスだと知ってから、ほぼ毎日のように彼女を振り向かせようと試行錯誤しているが、相手にしてもらえたことは一度もない。
そんな俺の意中の相手はとても可愛い。
外見だけなら天使だ。
腰まで伸びる長い黒髪に短い前髪。
大きくくりくりとした青みがかった瞳と丸い柔らかな額。
所謂童顔で、ロリ顔といっても過言ではないくらいに愛らしい面立ちだ。
日光に晒されていない白い肌に細い体躯。
何度も言うが、外見だけ見れば彼女は、まるで天界に住む天使がこの世に舞い降りてきたんじゃないかというくらいに可愛らしい。
悪魔でそれは、外見だけの印象だった。
実のところ、性格の方はそうもいかなかった。
彼女は内向的なタイプらしく、口数も少なくて、クラスの奴らとも絡まない。
友達を作らない主義なのかいつも一人で教室で読書をしている。
それが冷たい印象を与えているようで、教室で彼女に話し掛ける人間は誰もいない。
このクラスで言ったら、精々俺くらいのものだ。
しかもその上、彼女は病弱らしく学校をよく休むから、彼女が学校にいることは決して多くはない。
正に、高嶺の花という訳だ。
此処まではいい。
極稀にいる病弱な美少女のお決まり設定だろう。
病弱でよく休んでいるから学校が苦手なんだ、と。
まぁ、普通はそんな風に受け取るもんだろう。
問題は此処からだ。
まぁ、正確には彼女の本性について、だ。
俺が思うに、彼女の本性というのは実に奇怪で破天荒で飛び抜けていた。
その大半は、彼女の毒舌なのだが。
そう、彼女は酷く毒舌で冷たかった。
しかも、その毒舌も相当なものだった。
かなりの暴言。
言葉の暴力、言葉の殺人。
きっと彼女なら、会話だけで人間を意図もたやすく殺せるだろう。
それくらい殺傷能力が高い上に厄介なのだ。
彼女は、元から他人には興味や関心が全くないタイプらしく、その上、自分に好機な目を向けて話しかけてくる輩を酷く嫌悪していて、一度口を開くと思わず此方が死んでしまいたくなるような、鋭利な毒舌の刃で人の心と自尊心を切り裂いていく。
特に、俺には酷い。
本当に酷い。
心が折れそうな毎日を送っている。
(俺、タフなタイプで良かった。)
普通の人間ならとっくに自殺しているだろう。
それだけ彼女の毒舌は恐ろしい殺傷能力を誇っているのだ。
他人が自分のテリトリーに入ってこようとするようならば、すぐさま場外へ弾き飛ばす。
もしかしたら、彼女の中では“他人=敵”の方程式が成り立っているのかもしれない。
(あのボールペンは恐ろしい…。)
そう、意外にも彼女は攻撃的だった。
それについては、苦い経験を何度も何度もしている。
その度に殺されかけているのだ。
まぁ、それが始まった頃まで時間を戻すとしよう。
俺が彼女に恋をして、付き纏い続けて一週間と4日が過ぎたときに、それは、唐突に起こった。
――――――――――――
「帝人くーん!一緒に帰ろうよ!」
放課後だというのに帰り支度もせずに、窓辺の自分の席に座りながら、本を読んでいる彼女。
俺はいつものように彼女の前に立って話し掛ける。
「……………」
俺に視線もくれずに、相変わらず彼女は黙々と本を読み続けている。
(今日もだんまりかぁ…。
道は長く険しいもんだな…。)
仕方なく、俺は彼女を待つことにした。
待ってみることにした。
彼女の読書とやらが終わるまで。
日も完全に落ちて段々外が暗くなっていく。
教室には彼女がペラリと本を捲る音しか響いていない。
そのページも残り僅かというところまで差し掛かっていた。
暇を持て余すこともなく、飽きもせずに彼女を見続けていた俺の存在を、完全に無視しているのだろう。
まるで、俺がいないかのように、この空間には彼女の世界だけしか広がっていない。
(本当にツレないな。
でも、そんなところも興味深いんだよなぁ。)
見回りをする教師や用務員を三度程見送ったところで、パタンと彼女は本を閉じた。
どうやら読み終わったらしい。
その本を鞄に仕舞いながら、彼女は携帯を取り出して液晶画面に視線を落とす。
薄暗い部屋で見る彼女の青い瞳は携帯の液晶の光を反射しているからか、キラキラと水色に輝いていた。
それに思わず目を奪われた。
俺がボーっと彼女に見蕩れていると、不意に彼女が立ち上がった。
そして、俺の存在を完全に無視してスタスタと教室を出て行く。
それに焦って、俺は自分の鞄をひっ掴みドタドタと彼女を追い掛ける。
「待ってよ、ねぇ!待ってって!一緒に帰ろうよ。
ていうか、こんなに暗いんだから送っていくって!」
誰もいない静かな廊下に俺の声が響き渡る。
響き渡り、反響する。
その俺の声にも何の反応も示さない彼女は、無言でスタスタと廊下を歩き続けている。
「家どの辺なの?俺と反対方向だったとしても、ちゃんと送ってくから安心してよ。」
本当は彼女の住所は把握していたが、一応そう口にする。
なるべくいい印象を持たせておきたい、というのが本音だが。
まぁ、いろいろあって情報を操作することに長けていた俺は、彼女のことは入学式に出会った瞬間から、粗方調べ尽くしていた。
住所、生年月日から家族構成まで様々なことを調べた。
調べた上でわかったことは、彼女はごく至って平凡な女子高生だということだけだった。
成績は中の上、運動は得意ではない。
出席日数はいつもギリギリ。
まぁ、普通の家庭に育ち、普通に生きてきたってことだ。
病弱なことは除いて。
元来彼女は病気がちな体質らしく、幼い頃から何度も入退院を繰り返しているようだった。
その原因の一つが気管支炎なのだろう。
そう、彼女は気管支炎を患っていた。
恐らく、入退院が多かったり、学校や体育の授業を休むのは、その発作のせいといえるだろう。
色白で華奢なのも何となく頷けてしまう。
総合して、俺は殊彼女――竜ヶ峰帝人――のことにおいては何でも知っていた。
まぁ、それをわざわざ彼女の前で露呈することはしないが。
(だって、嫌われたくない。)
いや、元から彼女に好かれてるという訳ではないけど。
何にせよ、やはり印象というものは大事なのだ。
「ねぇ、送っていくから家教えてよ。
こんな暗いのに女の子の一人歩きは危ないよ?
君が暴漢に襲われたら大変じゃないか。」
「……………」
階段に差し掛かった所で、急に彼女の足がピタリと止まった。
別に振り返る訳でもなく黙って俺に背を向けている彼女に違和感を抱いたので、素直に彼女に声をかけてみた。
「あの、帝人君…?どうかしたの?」
俺の言葉に応えるでもなく相変わらず黙り続けている彼女だったが、突然何の前触れもなくバッと此方に勢いよく振り返ってきた。
長い黒髪がサラリと揺れて、柔らかい香りが鼻腔を擽る。
(あ、いい匂い)
そんなどうでもいいことを考えていると、
カチャリ
鋭い光が眼前に迫り、俺は動けなくなった。
いや、正確には動きを封じられたのだ。
彼女によって。
彼女の握る二本のボールペンによって。
「―――っ!?」
二本のボールペンの内の一本は俺の眼球スレスレの位置までその芯が突きつけられている。
遠近感がおかしくなる程の距離で見るボールペンの芯は酷く眩しく、大きく鋭い。
もう一方はというと、俺の首の頸動脈がある位置に正確に突き立てられている。
触れる芯の冷たい感触に、ドクドクと頸動脈が脈打つのを感じる。
そんな強烈な二本の攻撃を受けて、俺は完全に動けなくなってしまった。
至近距離に迫る彼女の瞳は恐ろしく冷たくて、思わず冷や汗が背中に流れる。
それに反して、初めて間近で見る彼女に、また一つ心拍数が跳ね上がったのを感じた。
俺が何も言えないでいると、不意に彼女は口を開いた。
「折原臨也、15歳、都内の私立中学校を卒業後この来神高校に入学。誕生日は5月4日の牡牛座、血液型はO型、家族は父と母と小学生の双子の妹の4人。父親は大手外資系の大企業の社長で、母親も有名な財閥のご令嬢。家は都内の高級住宅街にある大豪邸で、かなりのお金持ち。今は両親共に海外にいるので、2人の双子の妹の世話を任されている、でしたっけ。」
「っ!!」
つらつらとまるで朗読か何かのように、淡々と一定のリズムを刻んで俺の情報を並び立てる彼女。
初めて聞く、彼女の声。
それは、とてもか細くも凛としていて、俺の脳髄に染み渡っていった。
「趣味は人間観察と情報の処理、収集、操作。機械系に長けていて、ハッキングや犯罪まがいのことはお手のもの。成績は常にトップで頭が非常に良く、運動神経もかなり良い。外見も美少年な上に、努力しなくても何でもこなせる天才で、眉目秀麗が服を着て歩いているかのような男。まぁ、性格の方はどうやら酷く残念だったようですが。
其処だけはきっと神様に嫌われたんでしょうね。
だって、貴方人でなしですもの。
他人の内側にズケズケと入り込んでは、引っ掻き回して、踏みにじって捨てるのが大好きなんでしょう?」
ニコリ、と初めて見せてくれた笑顔に鼓動は高鳴るが、言われている内容が言われている内容なので、その笑顔が俺には絶対零度の冷笑にしか見えない。
弁明をしたくとも、眼前で光り視界を眩ませる一本と、そしてグリグリと頸動脈を抉らんばかりに押し付けられている一本、合計二本のボールペンのお陰で口を開くのすら許されないような状況だったので、何も喋れない。
「“人、ラブ”でしたっけ。
何なんですかアレは。気色が悪い。
貴方って相当に頭がおかしい方だったんですね。中二で止まってそのまま成長もせず、退化しているのですね。お可哀想に。
誰にも相手にされずに一方的に人間に無駄な愛を注ぎ続ける貴方を、親切な僕が哀れんで差し上げますよ。」
「………っ、」
(酷い…)
あんまりだ。
これは、毒舌なのか。
いや、それにしてはあんまりにも猛毒過ぎる。
最早致死量だ。
何だ、これは。
こんな情報何処にもなかった。こんな彼女は、知らない。
何もかもが予想外過ぎて、意外過ぎて、新鮮過ぎて、俺の中の彼女への理想像がガラガラと音をたてて崩れていく。
(彼女は、竜ヶ峰帝人は、病弱で、外見は天使だけど無口で、人との関わりを嫌っていて、)
でも今眼前に迫る彼女はどうだ。
攻撃的で、ボールペンが武器で、敬語属性で、物凄い俺を睨んでいて、かなりの毒舌で、冷たくて――――
笑顔が、可愛くて…
「“何だコイツ意外に毒舌だけど笑えばかなり可愛いんだな”」
「!?」
「って、顔をしているけど。
全くその通りですよ。」
意外に自信家で、ちょっとだけ自意識過剰だった。
(それを自分で言うのか)
ともかく、これがあったからこそ、俺は更に彼女にのめり込んでいくことが出来たのだろう。
今では、完全に骨抜きにされてしまっている。
――――――――――――
「何を考えているんですか?一人でニヤニヤと気持ち悪い。」
「…………」
彼女の一声で現実に引き戻された。
回想でもお分かりのように、彼女の暴言は衰えることを知らない。
寧ろ冴え渡ってきてさえいる。
「当ててあげましょうか?
下衆な貴方のことですもの、どうせ碌なことじゃないんでしょう?」
「………いや、別に変なことは、」
「変なことは?」
(考えていなかった、とは言えません。)
「どうして何も言わないんですか?
……やっぱり貴方、」
「違うよ!ただ、俺は回想をしてただけだよ。
何で君を好きになったのかなーとか、出逢った頃は今よりツンドラだったなーとか。そんな回想に浸ってただけだよ。」
「ふーん?
ツンドラだなんて、随分な言いようじゃないですか。」
「いや、別に、悪気があった訳じゃ…」
「折原君って、優しいだけの何処にでもいる下らない女の子がタイプだったんですね。初めて知りました。」
「いや、だから、俺は、」
「………じゃあ、僕じゃダメですね。僕じゃ、全然折原君の好きなタイプの足元にも及ばない。
―――それって、何だか、とてもつまらない。」
「…………え?」
「…っ、何でもないです!
僕、先に屋上行ってますんで!折原君は五分くらい経ったら来て下さい。すぐに来たら刺しますからね!」
恥ずかしそうにそう告げて走って行ってしまった彼女を、俺は呆然と見送る。
動けなかった。
いろんな意味で。
(今、彼女は何と言った?俺の好きなタイプじゃいれない自分が、つまらないと言ったのか?それって、つまり、俺の好きなタイプ=竜ヶ峰帝人じゃないっていうことが、嫌ってことか…?
それって、それってまさか、)
「脈あり…ってこと?」
どうしよう、
どうしよう、
どうしよう!
嬉しい。
正直言ってかなり。
(嬉れし過ぎる!!)
「やった…!ははっ、ははは、やった!」
(俺、片思いじゃないじゃん!帝人君に思われてるじゃん!ノミ蟲でも、クラスメイトでも、他人でも、下僕でも、ストーカーでもない。一人の人間として、異性として、彼女に思われてるってことじゃん!
どうしよう…!こんなに嬉しいことってないよ!あー、今すぐ抱き締めたい!でも五分後に行かないと刺されちゃうし、でも、でも、我慢できない!今すぐ帝人ちゃんに会いたい!触りたい!抱き締めたい!)
「刺されるくらい今更だ!」
(そんな照れ隠し、いくらだって受けてやるよ!)
俺は、勢いよく教室を飛び出した。
最短で彼女の元へ飛んで行くためには、無様な姿なんて気にならないくらい。
それくらい、嬉しかった。
舞い上がっていた。
本気で、好きになった。
最初で最後の女の子。
どうやら、俺はあの性格も含めて彼女を心の底から愛しているらしい。
「帝人、ラブっ!!」
end
常盤様リクエストありがとうございました。
こんな気持ち悪い話になってしまってすみません!シズちゃんを出す予定が出せなかった!
今度は来神組も絡めて小説を書きたいと思っています!
こんな駄作で良ければ、また読んでやって下さい。
常盤様のサイト様にもまた遊びに行きます!
- 7 -
[*前] | [次#]
ページ: