折原家の災難


子供たちの設定は此方をご覧下さい。今回は12歳くらいの設定にしています。










亞夜はママが嫌い。
ママとも呼びたくないくらい憎んでいる。
何故なら、臨也パパに一番に愛されているから。
亞夜の方が臨也パパを愛しているのに、いつだってパパの一番はママだった。
亞夜がどんなにパパに“愛してる”を告げても、パパは困ったように笑って『亞夜も彌夜も大事なパパとママの子供だよ。』と言ってはぐらかされるだけ。
何で?どうして?
亞夜はこんなにパパに似ているのに。
見た目だって、性格だって、目の色だって、頭の良さだって、
全部全部こんなに似ているのに。
どうしてパパは、亞夜を見てくれないの?
亞夜が子供だから?

それだったら、そんなこと感じさせないくらい貶めてやればいい。
パパが大好きな人間たちを壊してしまえばいい。
ママを、奪ってしまえばいい。

(あんまり亞夜をナメない方がいいよ。)







――――――――――――




思い立ったら即行動。
パパも波江さんもいない間にパパの仕事用のパソコンを立ち上げる。
“password”
すぐに出てきた画面に暫く考えて、ママの誕生日とスリーサイズを入れたら一発で開いた。
パパのママ溺愛っぷりに舌打ちをしつつ、必要な情報を掠めとる。
今回はママを困らせる為に、少し小さい組織を利用してママを襲わせる計画を立てていた。
まだ小さい組織だし、金さえ払えばこっちの指示通り動いてくれるだろうと、早速その組織の掲示板に文章を打ち込んでママの写真を添付した。

『この女はこの組織を潰そうと暗躍している。捕まえれば賞金は300万円。』

投稿のボタンを押して準備は完了。
アクセス数もなかなか多いみたいだし、これで夕方ママが買い物に出れば、間違いなくこの組織の奴らに絡まれるだろう。

「さて、どう出るか。」

別に殺す訳じゃない。
少し困らせるだけ。
そう、困ればいい。

(亞夜の日頃の恨みだよ。)







そのときの考えは甘かったのだと、後々になって亞夜は思い知らされた。






―――――――――――





「ただいまー。」

パパが帰ってきた。
ママは予定通りに買い物に行っているので、亞夜と彌夜しか家にはいない。
それをパパに告げると、パパは優しく微笑んで『じゃあママが帰ってくるまで一緒にテレビでも見ようか。』と言って、亞夜と彌夜の真ん中に座ってテレビをつけた。
それだけで亞夜は幸せな気持ちになった。
彌夜は邪魔だけど亞夜より弱いから最初から眼中になどない。
だって今だってうとうとしながらパパの膝で寝こけているもの。
パパはそんな彌夜を愛しそうに撫でる。

(亞夜の特等席なのに!彌夜のバカ!)

そんな感じで一時間二時間三時間と時間は過ぎ、いよいよパパは何かに気づき始める。

「帝人君、遅いな…。」

「え?」

「もうすぐ7時半だし、買い物にしては遅過ぎる。携帯も繋がらないし。
亞夜、帝人君買い物の後何処かに行くって言ってた?」

「ううん。亞夜は、買い物に行くとしか聞いてないよ。」

(本当は知ってる。今頃ママは何処ぞの知らない誰かに襲われている頃だと思うけど。だって、そうなるように亞夜が仕向けたんだもん。)

これで今日一日パパを独占できるんだから。

「でも、連絡を寄越さないでこんなに遅くなるなんて……、帝人君に限ってありえない。何かあったのかな…。」

パパの表情が不安げに歪むのを見て、亞夜の心まできゅうっと痛くなる。

(パパがこんな表情するなんて…。あの臨也パパが…、)

「帝人君に何かあったんだ。誰かに襲われたとか?あー!こうなるなら早めに仕事終わらせて一緒に買い物行けばよかった!…そうだ、新羅に電話、」

あたふたと取り乱しながら携帯を取り出して、パパは何処かに電話を掛けている。

(岸谷先生かな…)

「あ、あ!新羅?ちょっとそこに帝人君来てない?」

『いや、今日は来てないけど、どうし、』

「運び屋は?シズちゃんは?ドタチンは?まさか紀田君?」

『ちょっと落ち着きなよ。何かあったのかい?』

「帝人君が帰って来ないんだ。買い物に行ったっきりもう何時間も。携帯も繋がらない。もう夜中だってのに…。俺、どうしよう。帝人君がいなくなったら、俺は、」

『だから落ち着きなって。それにまだ七時半だよ?夜中ではないんだから、きっと誰かと話し込んでて遅くなってるんだよ。』

「だって、いっつも連絡くるよ。誰かと会うときは必ず俺に言えって、言ってるのに…、帝人君に限ってそんな…っ、新羅、俺、どうすれば…」

『ちょっと冷静になりなって。今セルティと静雄には連絡入れて探して貰うからさ。……本当に君って帝人君のことになると人が変わるよね。』

「俺も探しに行く!」

『探しに行くって言ったって子供たちはどうするの?僕は無理だからね。彌夜君はともかく亞夜ちゃんは苦手だよ。』

「子供たちはドタチンに頼むよ。とにかく、帝人君を探さないと…、」

『まぁ、そうしないと臨也の気が収まらないっていうなら、子供たちは門田君に任せるのが適任だね。本当、君って父親失格だな。』

「仕方ないよ。俺は帝人君には、頭が上がらないくらい世話になってるし、愛しているんだから。」

『そうだったね。野暮なこと言ったよ。じゃあ、せめて門田君が来るまでは部屋で大人しく帝人君の行動履歴でも探してみれば?情報は君の得意分野だろう?』

「そうするよ。じゃあ、見つかったら教えて。」

『いいけど、ちゃんと静雄にもお礼言うんだよ?』

「冗談。誰がシズちゃんなんかに。」

『はぁ。まぁ、とりあえず連絡してみるよ。』

「うん、お願い。」

そう言ってパパは電話を切って仕事用につかっている隣室へと向かおうとする。

(一応証拠は消したつもりだけど。)

勘の良すぎるパパなら気づいてしまうかもしれない。

その瞬間、再びパパの携帯が鳴る。
苛々した様子のパパは舌打ちをしながらその電話に出る。

「もしもし」

『臨也さんっすか?紀田ですけど。』

「何?今君に構ってる隙なんかないんだけど、」

『はぁー…。そう言うと思いましたよ。いいんすか?そんなこと言って。』

「だから何。」

『帝人、保護しましたけど。』

「へ?……まさか君、」

『言っときますけど、買い物帰りに街で怪しい集団に襲われた帝人をたまたま見かけたから助けて保護しただけっすからね。俺がアンタから帝人を奪い返そうとした、とかそんなんじゃないっすよ。』

「襲われた!?襲われたってどんな奴らに?っていうか帝人君は無事なの?」

『ええ、帝人が殴られる前に俺がそいつら全員虫の息にしましたから。
帝人を襲った奴ら、多分最近できた小規模なカラーギャング気取りの組織の奴らだと思うんすけど、』

「わかった。ありがとう。悪いんだけど、帝人君を無事にマンションまで送り届けてもらえる?」

『それはいいっすけど、臨也さん迎えに来ないんですか?』

「行きたいのは山々だけど、生憎俺にはやらなきゃいけないことが出来たからね。ナイトの役目は残念ながら君にお願いするよ。」

『残念ながらって…』

「あと、新羅達にも帝人君の無事を連絡しといて。それじゃ。」

『ちょ、臨也さん!』

ブツッと強制的に通話を終了させると、パパは黒色のコートを羽織って玄関に向かう。

「パパ!何処行くのっ?」

それに慌てて駆け寄ると、パパは振り返って亞夜にこう言った。

「今から紀田君が来るから、それまで大人しくしてるんだよ?」

「でも、パパは?」

「パパはちょっと野暮用があってね、今からどうしても出掛けなきゃならないんだ。
危ない害虫は即刻駆除するに限るだろう?」

笑ったパパの顔はいつもよりも冷たくて怖かった。
凍てつくような鋭い血の色よりも赤い眼に、亞夜は思わず目を逸らしてしまう。

「………っ、」

靴を履いて玄関の扉を開けて行ってきます、と言ったパパに言葉を返そうとしたら、いきなりくるりとパパは振り返って、亞夜の目の前に屈んだ。
覗き込まれた赤い瞳から、目が離せない。

「亞夜。」

「な、何…?」

「これ、亞夜がやったでしょ?」

「!?」

「何で知ってるのって顔してるけど、その説明は後でゆっくりしてあげるよ。とりあえず今は大人しく紀田君が来るまで彌夜と待っていなさい。何もせずに、大人しく、ね。」

「…………、」

「帰ったらちゃんとママに謝るんだよ?じゃあ、行ってくるね。」

バタンと閉められたドアの音にやっと緊張感が解かれて、思わずその場に座り込む。

「……パパ、笑ってなかった。」

(あんなに怖いパパ、初めて。)

そのときになって改めて、パパの一番は自分じゃないのだと悟った。












end

帝人が一切出てこない上に彌夜が空気!しかも鬱なまま終わってしまった…(^q^)
臨也の一番はいつだって帝人だよっていうのを書きたかったんですけど…、蒼氷様申し訳ありません!こんな形になってしまいました!
後編が書けたら書きたいと思います。

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