いい加減新宿帰れよ馬鹿










「あっ、帝人ちゃんだぁっ!やっべー、このクソ暑い中池袋で一日中仕事とかマジ死ねとか思ってたけど、これは予想してなかった!まさかこんな所で帝人ちゃんに会えるなんて!何という俺得!」

クルクルと回りながら、真夏にも関わらず暑苦しいコートを振り乱して臨也は帝人に話しかける。
帝人はというと、本当に嫌そうに顔を歪めながら、鞄を握り締める。
そんな帝人の反応にもへこたれずに臨也はニコニコしながら話し続ける。

「てゆーか、帝人ちゃんの夏服生で見るの初めて!かーわいいー!生腕と生足が最高に良いね!マジ可愛い!」

帝人が許可した訳でもないのに臨也は勝手に帝人をパシャパシャと携帯とデジカメで撮り始める。

「これマジ可愛すぎる。俺やっぱ天才だわー。待ち受けとデスクトップ決定だな。」

「……………」

「てゆーか、こんなところで何してんの?帝人ちゃん肌白いのにこんな所で突っ立ってたら日焼けしちゃうよ。」

そう言って、自分の暑苦しいコートを脱いで、バサッと帝人の上に被せる。
帝人の額に青筋が一つ立つ。

「待ち合わせ?あ、まさか俺のこと待ってくれてたとか?そっかー、嬉しいなー。俺昨日、帝人ちゃんに明日池袋で仕事だって言ってたもんねー。返事が返ってこなかったから、メール見てないのかと思ってたけど、なぁんだー、ちゃんと見てくれてたんじゃないか!さっすが俺の帝人ちゃん!本当ツンデレだなぁ。まぁ、そんなところも愛してるけど!
返事返さない癖に、こうして暑い中俺のこと待ってくれてたなんて…っ!本当可愛すぎる!俺、幸せ過ぎて涙でてきちゃったよ!実は昨日帝人ちゃんの返事待ってたらいつの間にか朝になってた、なんて言わないけど!
つーか、マジ帝人ちゃんのデレたまんねー!無視されても付きまとってきた甲斐があったよ!俺本当はメンタル面あんまりタフじゃないんだけど、帝人ちゃんのおかげでタフになってきたんだ!愛には障害がつき物だもんねー。障害を乗り越えてこそ、真実の愛を掴むことが出来るって誰かが言ってたしね。
ということで、新宿帰ろうか。」

ベラベラと一人百面相を繰り返していた臨也がニッコリと笑いながら帝人の手を握り締める。
その瞬間帝人は、携帯を取り出し、誰かにメールを送った。
その様子を見ていた臨也は嫌な予感を覚えた。
そして、帝人がメールを送ってすぐに背後で着信音が鳴り、うすら寒い気配を感じた。

「…ん?あれ、帝人ちゃんってば誰にメール送ったのかなー?何だろう、気のせいかな、臨也お兄さんすごーく背中が寒いんだけど…。てゆーか、振り向きたくないんだけど…」

「どうぞ、振り向いて下さい。」

「うっわ!物凄く可愛い笑顔!チクショウ!可愛い過ぎて怒るに怒れねぇ!」

「いーざーやーくーん?」

「……チッ」

舌打ちと共に振り向くと、そこには自販機を片手に般若のような表情で臨也を睨みつけている平和島静雄がいた。

「シズちゃんさぁ、いい加減空気読むこと覚えたら?帝人ちゃんとせっかくいい雰囲気でお話してたのにさぁ…。もう最悪。早く死んでくんない?」

「テメェが死ね!!つーか、汚ねぇ手で帝人に触ってんじゃねぇよっ!!」

自販機を掲げると、静雄はそれを一気に臨也に投げつける。
それを軽く避けながら臨也はナイフを取り出す。
いつもの戦争が始まってしまった。
その様子を横から見ながら、帝人は溜め息を吐く。

(今日は久しぶりに静雄さんとデートだったのにな…。あのノミ蟲邪魔しやがって、クソが。)

段々ドス黒い方向に思考が進んできた帝人は、思わずボールペンをカチカチと苛立たし気に鳴らす。

(僕が持つ文房具という文房具で針山にしてやろうか。その上でもう二度と僕と静雄さんに近寄らないって言わせるまで土下座させてやる。それとも、狩沢さんにでも頼んで徹底的に全身全霊を賭けてBL的な仕打ちをして、あの気持ち悪い自尊心と僕への無駄な恋愛フラグをへし折ってやる。)

もはや帝人には普段の面影は見えなかった。


目の前で繰り広げられる攻防戦は未だに終わる様子はない。

「つーかシズちゃんしつこいって!帝人ちゃん待たせてるんだからさぁ、ちょっとは考えてよ。」

「テメェ本当に勘違いが甚だしい野郎だな!帝人は俺の彼女だつってんだろーが!」

「な…っ、み、認めてないもんっ!!認めてないからな!バカっ!!シズちゃんの癖に!」

「何でちょっと泣きそうなんだよ。気持ち悪ィな。」

「帝人ちゃんは、いつか俺に振り向いてくれて、俺を受け入れてくれるんだもん!し、信じてるもん!」

「………いい加減哀れだぞ。」

「あ、哀れむなよっ!!せめてライバルとして扱ってくれ!
お願いだから、このミジンコ並みに僅かな恋愛フラグをそんな簡単にクラッシュしないで!!」

うわああんっと大泣きしながら、臨也はその場に体育座りをする。
それにいたたまれなくなったのか困り果てたのかは知らないが、静雄は頭をポリポリと掻きながら帝人の方に振り向く。

「……帝人、臨也が泣き出した。」

「全く、静雄さんは優しいですね。優し過ぎます。こーゆーのは、徹底的にやらないと。」

「そう言われてもなぁ…。俺も早いとこお前と出掛けてぇけど、コイツほっとく訳にもいかねぇし。」

「そーゆーところが優しいって言ってるんですよ。てゆーか、甘いです。静雄さんがそんなんだから、このゴミ……いえ、臨也さんがつけあがるんです。」

「ゴミって…。」

「静雄さんがそんなだったら、僕静雄さんのこと嫌いになりますよ!」

「えっ!?そ、それは困る!
……わかった。じゃあ、コイツにとどめ刺すからちょっと待っててくれ!」

「今日はもういいですよ。後は僕に任せて静雄さんはそこで見ていて下さい。」

「あ?でも…、」

「大丈夫ですよ。僕静雄さんのこと大好きですから、そんなことで嫌いになったりはしません。……ちょっとヤキモチやいただけですっ」

「み、帝人っ!!」

帝人の言葉に感激のあまりに、静雄は帝人を抱き締める。
そんな静雄の頭をポンポンと撫でながら、帝人は未だにグスグスと泣き続ける臨也を見る。
そして、静雄を見上げて微笑みながら恐ろしい言葉を口にする。

「再起不能にしてきます。」

語尾にはハートマークがつきそうなくらい良い笑顔だった。
静雄はその笑顔にいろいろな意味でノックアウトを食らった。










その日池袋の住人たちは、幸せそうに彼女とのデートを楽しむ平和島静雄と、噴水に沈められた上に廃人になった折原臨也、という珍しくも恐ろしいものを見たという。













(帝人は絶対怒らせないようにしなきゃな。)

平和島静雄は密かに誓った。








end
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