devilish butler










我が家の執事は他とは違う。

見た目こそは平凡そのもの。

だが、中身は凶暴で兇悪。

清く正しく美しくをモットーに、それを破る者は容赦なく罰する。

例えそれが主人であろうと彼女には関係ない。

彼女には誰も逆らえない。








――――――――――――





爽やかな朝の日差しと共に、一人の青年が目を覚ます。
細かい細工が施された天蓋付きの黒いベッドが如何にも様になっている。
そう、彼はこの辺りに住んでる者なら誰でも知っている、名門貴族の息子―――折原臨也だった。
折原家は代々由緒正しい名門の貴族である。
彼が五つの頃に父親は病死し、また彼が七つになる頃に母親も双子の妹を産んで死んでしまった。
それからというもの、長男である彼はこの家の全てを任されている。
謂わば彼は、齢七つで若き当主となったのだ。
幸か不幸か彼は、誰もが認める才に溢れた人材だったので、七つとは十二分に折原家を動かしていく力があった。
眉目秀麗、才色兼備、彼はそんな言葉が似合う逸材だった。

でも、そんな彼も決して一人で育ってきた訳ではない。
幼い双子の妹たちの面倒を見ながら、長年彼を支えてきた存在がいる。
支えてきたといえば聞こえはいいが、実際は違う。
正確には、教育されてきたのだ。
長年、折原家に仕える年齢不詳の女執事に。
彼女は、とても厳しかった。
彼を由緒正しい折原家の長男に恥じぬような生き方をさせるために、幼かった彼にこの世の善悪の全てを身を以て叩き込んできた。

その厳しさは常軌を逸していた。
寧ろ、異常なくらいだった。
彼女のお陰で彼は死ぬような経験を何度もしてきている。
そのせいか、例え赤子の頃から彼の面倒を病弱な母に変わって見てきたとはいえ、未だに彼は彼女に慣れることは出来なかった。
端的に云えば、かなり苦手だった。
それは、23歳になった今でも変わらない。







コンコン、と控えめなノックが聞こえたかと思うと、扉の向こうから声がかかった。

『臨也お坊ちゃま、朝でございますよ。そろそろ御起床なさって下さい。』

凛と通るその声に彼はビクリと肩を震わせる。
彼女の声が聞きたくなくて、再び布団に潜り込む。
扉には鍵を掛けているから彼女は入ってくることが出来ないだろう。

(この間は、簡単に鍵をぶち破られたからね。今回は特殊合金で更に強力な鍵にしてもらったよ。)

しかも、上、真ん中、下の三カ所に鍵を掛けていたから、強度は更に上がっていた。
しかも、扉には小型爆弾を仕掛けていて、彼女が扉のノブを回した瞬間爆発する仕掛けになっている。
小型爆弾とはいえ、威力はかなりのものだ。
当たったら彼女でも只では済まないだろう。
それに内心ほくそ笑んで、彼は枕元に置いてあったノートパソコンを簡単に操作すると、ベッドの上に防御シールドを張った。しかも、防音完備である。

(これで、さすがの彼女も入ってこれないだろう。
昨日は、遅く寝たから今日はゆっくり休ませて貰うよ。)

「これで安らかに死んでくれよ、帝人君。」

そう呟いて、彼は再び眠りに落ちていった。










――――――――――――





強力な殺気を感じて臨也が目を覚ますと、グシャッという音ともに何かが臨也の頭ギリギリを狙って枕に突き刺さる。
それを横目で確認すると、どうやらそれは食事用のナイフであった。
臨也は舌打ちをすると、それを突き刺した相手を睨みつける。
対する相手はそれを全く意に介さずにっこりと微笑む。
手にはまだ数本のナイフが握られていた。

「おはようございます、臨也坊ちゃま。」

「…………っ」

「あら?挨拶が聞こえませんよ、臨也坊ちゃま?
もう一度言いましょう。おはようございます。」

「………お、はよう」

「はい、おはようございます。今日も偉いですね、臨也坊ちゃまは。
――――朝から、手を焼かせてくれる。」

「っ!!」

冷笑とともにピリピリ伝わる殺気に臨也は咄嗟に相手から距離をとる。

「あらあら、朝から随分とお元気なようで。帝人は安心致しました。
これなら、今日一日頑張って働いて頂けますね。今日は、平和島財閥の静雄様と岸谷医院長の息子さんの新羅様がいらっしゃるのですから。
お客様が多くて、此方も朝から大忙しなのでございます。」

「……どうやって入ったんだよ。」

「どうやって?変なことをお聞きになるのですね、坊ちゃまは。普通に扉を開けて入ってきたに決まっているじゃないですか。
―――それとも、何か僕が入ってこれないような仕掛けでもしていたのですか?
……そうですね、例えば、爆弾とか。」

「もし、そうだって言ったらどうする訳?」

「勿論、お仕置きです。」

「っ!嫌だ!それだけは、絶対やだっ!」

彼女の言葉を聞いた瞬間、臨也は全力で逃げようとする。
それを見逃す筈もない彼女は、素早く握っていた数本のナイフを投げて、臨也の身体を壁に張り付ける。
身体に刺さりはしなかったものの、寝具は完全に新しいものを買わなければいけないだろう。

「見苦しいですよ、臨也坊ちゃま。
元はと言えば、臨也坊ちゃまが扉に小型爆弾などを仕掛けた上に、あまつさえベッドに防御シールドを張るからいけないのですよ?
あんな簡単な仕掛けで、長年折原家に仕えるこの竜ヶ峰帝人を出し抜いたおつもりだったんですか?」

「でも、解除方法は俺しか知らないはず…」

「子供騙しを。」

「っ、クソッ!!」

「いけませんよ、坊ちゃま。そんなはしたない言葉。
僕は貴方様をそんな風に教育した覚えはありません。」

そう、彼女こそが折原臨也を亡き父母に変わり育ててきた優秀な執事―――竜ヶ峰帝人だった。
外見は幼い顔をした少女に見えるが、実年齢は臨也よりもずっと上――30歳は軽く越えている。
彼女は臨也の産まれるずっと前に臨也の父親に拾われて、それから長年この折原家に仕えている。
折原家の家訓というものを至極真面目に、至極当然の如く守ってきた。
そんな彼女に臨也は半ば地獄のような教育を受けさせられてきたのだ。

(恨むよ、父さん…)

「じゃあ、たまには主人を甘やかしてよ…
今日は一日オフにするとかさ。」

「平和島様に会いたくないからと言って、ズル休みはいけませんね。
第一、そのような卑怯で意地汚い姑息な手を僕が許すとお思いですか?」

「………はぁ。思わないよ。初めから思ってないから、こんなことしてるんだろ?」

食い下がらない彼女に臨也は半ば諦めにも似た溜め息を零す。

(でもシズちゃん苦手なんだよなぁ…)

そう、折原臨也と平和島静雄は家柄同士は仲が良いものの、当人同士の仲は険悪だった。
所謂、犬猿の仲なのだ。

「平和島様の何処がそんなにお気に召さないのですか?彼はとても純粋で良い子ではありませんか。よく僕の仕事の手伝いもしてくれますし。まぁ、その分修理費が嵩むのですけれど。」

「それは、シズちゃんが君のことが好きだからだよ。あ、これは恋愛的な意味だからね。
それに彼は年上が好みみたいだし。
あ、君彼と結婚でもしたらどうだい?」

「それは困りますね。僕の人生は全て折原家に捧げる覚悟ですので、臨也坊ちゃまと離れて平和島家に嫁ぐなど、考えられません。」

「嬉しいことを言ってくれるね。でも、残念ながら俺はアンタに早いとこ居なくなってもらいたいんだけど。」

「相変わらず冷たいのですね。でも、それでも構いません。現時点での僕の主人は貴方。
僕の一生はこの折原家と主人の臨也坊ちゃまに捧げます。
貴方が死ぬときが、僕の死ぬとき。」

ツカツカと臨也に近付いた帝人は、彼の衣服に刺さったナイフを抜き解放する。
そして、そのまま臨也の足元に跪くと、臨也の手をとりその甲に口付けを落とす。

「………っ」

「命を賭けて、貴方様をお守り致しますよ。」












これだから、我が家の執事は恐ろしい。

だってこんなにも、

(愛しい…)

主人を虜にさせるのだから。











end

いろいろと足りない感じですが、どうでしょうか!本当にこんなんですみません!クロック様><

リクエスト本当にありがとうございました!

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