記憶



憶えていたいことほど

ヒトは忘れてしまうものだ




どうでも構わないことほど

ヒトは憶えているものだ




自分の意識とは無関係に

記憶という名のデータは更新されていく




あれだけ好きだったのに

名前も顔も声も思い出せなくなる




何度も何度も

呼んだのに




何度も何度も

見つめたのに




何度も何度も

聞いたのに




僕はそれが怖くて仕方が無い

忘れるのが 思い出せなくなるのが怖くて仕方が無い




けど いっそのこと

忘れられたら 思い出せなくなれたら

どんなに楽だろうかと

締め付けられる胸を押さえ 唇を噛み締めている




そうやって下唇の上に滲んでいく液を

どれだけ味わってきただろう




頭が割れそうになるくらいに 残酷だ




これほどまでに苦しんでいる脳を余所に

恋焦がれ続けていく心を




僕は怨んだ










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