退勤



少し肌寒いな、と思えば既に日が落ち始めていた。

『6時か…』

他の社員らが退勤していった後の職場というのはあまりにも静かで
自分の仕事に集中し過ぎてしまう。つまり疲れる。目が痛ェ…。

首や肩を回していると隣のデスクから山崎が声を掛けてきた。
つーかまだ居たんだな、こいつ…。

『あれっ課長、帰られます?』
『あァ…区切りもいいし、保存して帰るかな』
『えー!そんな〜、俺まだ終わらんですよ…あっまたミスった…』
『…お前新入社員じゃねェんだからしっかりしろ』

この会社が特殊なのか、それとも社長がイかれているのか。
他の会社というのを見たことが無いからさっぱり分からないが、
課長である俺も、一般社員と同じ仕事をすることが多々ある。
基本的に俺の立場は所謂責任者であり、社員の面倒を見たりするのが仕事だ。
それに加え他の社員がし終えない、手が回らない、困った、どうしよう云々の…。
要は先が詰まってどうしようもなくなった際、積もり積もった仕事を消化していく。

勿論働いている社員はみんな人間だ。体調を崩すこともあるだろう。
本来ならてめェの身体くらいてめェでしっかり管理しろ、と言いてェところだがな。
その人間である社員の親族もまた、人間だ。
望ましくは無いが、突然亡くなられることもあるだろう。

欠勤者が出るということは、その分仕事が溜まる。
溜まるということは、データ抽出及び集計や
決算処理などの進行状況に大きな影響を及ぼす。

つまりそれは、俺の業務に間違いなく支障をきたすということになる。

なら溜まる前に、俺が消化していく方が早いだろう。
何ていうんだ?こういうのを…、尻拭いか?

とにかく、そういうものを含めて俺の業務。
そんな理由で、俺の業務が落ち着いたり暇になったりすることは
あまり無い。というか殆ど無い。に等しい。と思う。うん。

まあでも、自分の会社の奴らの残飯処理程度のことだ。
俺以外にやりそうな奴もいないしな。仕方ねェ。


という訳で、今俺は一般社員である山崎と似たような仕事をしていたということだ。


『ちょっと、本当に帰っちゃうんですかー!』
『ったりめーだろ!帰らなきゃ誰が飯作って食わせんだよ』
『あ』

あ、じゃねェよ…。
今頃とっくに学校から帰って、腹空かして待ってるだろう。
宿題をやっているかどうかは全く分からないが。

…多分、やってねェな…。

『今丁度区切り付いたんで、俺も帰ります』
『それはいいが、期限厳守だからな』
『へへ、分かってますって〜!』

なんだってこいつは俺に引っ付いて来るんだか…。
山崎は鼻歌交じりにパソコンをシャットダウンしている。
俺は冷め切った少しのコーヒーを飲み干し、ジャケットと鞄を手に取ると上機嫌の山崎と共に会社を後にした。



。。。






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