社員食堂



昼休憩。

弁当を持参しない俺は、社員食堂で昼食をとる。
その際、大抵は後輩たちも一緒だったりが多い。

あんまり一人で食うことはねェな。
意外だと言われることもある。

『これで。あ、マヨネーズかけてもらっていいすか』
『はーい。ちょっと待ってね〜』

食券をおばさんに渡し、トレーを持ったまま待つ。
厨房の方からは他にもカレーやらなんやらの匂いがして
俺の、すっからかんになっている腹が疼いた。

『課長ー、今日は何頼んだんですか?』

同じようにトレーを持って、横へ並んできたのは山崎。
気付かないうちに食券も渡し終えたようだ。

『カツ丼だよ。トッピングにマヨネーズ』
『王道ですね〜』

くつくつ笑いながら、自分はラーメンにしましたなんて言った。
王道…心にも無いことを言いやがって。

『はーい、お待たせ〜』
『おー、旨そ』

アツアツのどんぶりをトレーに乗せてもらい、適当に空いている席へと座った。
テーブルにある割り箸を一膳手に取ると、ラーメンを持った山崎も当たり前のように俺の前に座る。

『…お前、何でいつも俺の近くにいんだよ?』
『え、ダメですか?』
『別にダメじゃねェけど、一人が嫌なら同期の奴だっているだろ』
『やぁー、なんとなく。だってホラ、課長の傍って安全地帯ですよ』

箸を割ってラーメンを掬いながら、今度はへらへら笑い出す。

『…どういう意味かは知らんが、シメてもいいんだな?』

低い声で言うと、山崎は麺を口に運ぶ寸前で硬直した。

『土方さん、また後輩いびってるんですかィ?相変わらず酷ェや』
『何でお前まで来るんだよ、総悟』

沖田総悟。
この会社の係長を務めているが…。
度々仕事放棄しているとんでもない奴だ。

『いやァ、山崎の硬直してる様子が見えたんで』
『上司が部下いびってどうすんだよ。これは教育だ』
『そりゃあ大変でさァ、こんなに恐ろしい教育があるなんて』

ちっ、ああ言えばこう言う…。
こいつこそ俺をいびってるじゃねェかクソ野郎。

とか思いつつカツ丼を口に運ぶ。

『ま、まあでもせっかくご飯食べてるんですし、た、楽しくやりましょうよ』

気付いたら復活していた山崎が再び笑いながらやっとラーメンを食べ始めた。

『なんでィ、山崎。ラーメン旨そうだな』
『え、ていうかアレ、沖田さんは食べないんですか?』
『俺はいいんでさァ…飯なんて、飯…なん…て…』

え、何、どういうこと?
食券買う金がないってこと?え?

そんな訳ねェだろ。
そこそこ給料いい会社だぞ。そこそこだけどな。うん、そこそこ。
しかもサボり癖があるとはいえ役職係長ならそれこそそこそこ…ああもう言いづらッ!!

『…深い事情は聞かねェが、困ってんなら言え。食券くらい買わせてやる』
『え、土方さん…いいんですかィ?』
『ほら、これで食えよ。好きなもん』

財布から千円札を取り出し、総悟に渡してやる。

『よっしやったこれで…』
『良かったですね、沖田さん』
『別に返さなくていい。部下に飯を食わせるくらい痛くも痒くもないしな』

千円札を握り締めて券売機にまっしぐら…。
ふ、俺は上司として当然のことをし…

『おばちゃーん!!ラーメンと、チャーハン!』
『あーれ?総悟ちゃんさっきカレーライス食べてたのに、たくさん食べるのね〜!』


……え?


『総悟ォォオオオ!!!お前食い終わってたんじゃねェかアアアア!!!』
『ちょ、課長おお落ち着いて下さい!あああラーメンがあぁこぼれるっああああ課長ォォォォ』

向かって行こうとするも、山崎に阻止される。

『は〜い、ラーメンとチャーハンね〜』
『ありがとうおばちゃん!』

ありがとうおばちゃんじゃねェよ!俺にありがとうだろコルァァァ!!!

『あいつ絶対あとでシメる!!つーか今シメる!戻って来い総悟ォ!!』
『こ、ここじゃマズいですよ課長!ほらみんな見てますって!』

二品をトレーに乗せ、足取り軽やかに去っていく。
…あの野郎、休憩室に持って行く気だ…!!畜生ッ!!!
後で覚えとけよ総悟…!!!



『…てへペロ』




。。。






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