cake 前編



なんで素直になれないんだろうとか。
そんなこと考えてる時点で俺は既に

気が狂ってるのかもしれねェな。




  cake




『あンれ、土方さん今日は非番なんですかィ?』
『あ?あァまあな。うん、そう非番だから頼む放っといてくれ』

なんでこういう時に限ってコイツに出くわすかな…ついてねェ。
適当に返して立ち止まることなく歩くが、勿論付いて来るのがコイツだ。

『頼む!今日だけは付いて来るな』
『そう言われると付いて行きたくなるモンでさァ…何処へ行くんで?』

………〜〜〜〜〜ッ!!
一番面倒なんだよ、総悟が…!

上司の俺がこれだけ頼むって口にしてんのに、どういう神経してんだ。

『…ファミレス。こ、コーヒー飲みてェから、そんだけ』
『ふーん、そンならどうぞごゆっくり』

…あれ、何行き先がファミレスなら興味無いって訳。
いやあ良かった…素直な時は素直だよな総悟、分かってたよお前のこと。


『今日だけは命狙わないで置いてやりまさァ』
『おい!!!やっぱ戻って来い!一発、いや百発殴らせろ!!』

へらへら笑いながら颯爽と消えていく。
…やっぱり総悟は総悟だな…はァ。


とまァ、ファミレスに行くのは間違ってねェが、
コーヒー飲みてェからそんだけってのは嘘。

なんつーか、その。
アレだよ、分かるだろ?
何だよ分かんねェのか。


…よ、万事屋に今日空けとけって言われたそして待ち合わせしている。


そ、そんだけ。


今日空けとけっつうけど…何で今日?
奴は言うこと成すこと突拍子無さ過ぎて訳分かんねェんだよな。


つーかマジで良かった…総悟に気付かれなくて良かった。
面倒な事になるに決まってる。絶対に、確実に。


何故だか周りの目を気にしつつ、辿り着いたファミレスへと入る。


…まだ居ないか。良かった。

窓際にある二人掛けの席に座り、タバコに火を点けた。

先に飲んでるのも悪ィし…待っとくか。


煙を吸いながら考えた。

何でだ?
態々待ち合わせしてまで、俺に何の用があるってんだ。

分からない事だらけで、結局頭を使っても無駄だという事に気付く。

はァ…。
無意識のうちに何度目かの溜め息を付いて、タバコの火を消した。



…来ねェな。
総悟に阻まれた(ようなモンだろ)のもあって
俺は少し時間に遅れて着いたが、それからもう30分程度経っている。

…まさか。
素っ放かし?
二度寝?三度寝?

…十度寝?

いやいやいや!!
野郎だってもう大人だ。
自分でアラサーだって言っちまう程大人だ。
いくらなんでも予定の入った日に寝過ごすとか有り得ねェだろ。

…じ、事故にでも遭ったか…?!

ちょ、ヤバくね?
マズくね?え、俺どうする、どうしていい、どうしたら!!

…落ち着けェ、俺…!
高だかファミレスで待ち合わせて少し遅刻したから何だってんだ。
そんなに心狭くねェだろ俺。待て。落ち着いて待つんだ。

どうせ寝癖付けたまま
欠伸でもしながら
あの入り口から入ってくるに決まってんだろ。

野郎より少し早く着いただけの俺は
タバコでも吸って待ってりゃあいいんだ。よし。



此処に着いてから。
二本目を手に取り咥えると、二度目の火を点けた。






To be continued.







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