だいじなともだち



おもいだしてた。

おれがきょうしつにかくれた、
あのたいいくのじかんのこと。


なんでいやだったのか。
せんせいにもきかれたけど、おれはこたえなかった。

おれは、ただのにねんせい。
ほかのみんなは、いちねんせいをがんばったにねんせい。

そんなみんなが、
いちねんせいをどんなふうにがんばったのか。

おれはしらない。

いちねんせいってどんななのか。

おれはしらない。

いやなのは、もちろんたいいくだけじゃない。
こくごもさんすうもいやだ。

でも、こくごやさんすうは
じゅぎょうちゅうにこくばんをみて
せんせいのはなしをきいて
きょうかしょをみて
ノートにかく

おれはせんせいと め をあわせないから
しめい、されることがないし
ただじぶんのできることをやっていればいい。
ノートをのぞいてくるひともいないし
おれのかんじがまちがっていても
おれのひきざんがまちがっていても
ほかのみんなにみられることはない。

たいいくはちがう。

てつぼうをみんなのめのまえでやらなきゃいけない。
まえまわりなんて、できない。
ほかのみんなはぐるぐる、ぐるぐるまわってるのに。

きっといちねんせいでがんばったんだ。
そうにちがいない。

おれには、できない。

まえまわりができるみんなは
さかあがりをれんしゅうしていた。

なんだ、あれは。
にんげんじゃないみたいだ。

おれには、できない。

だからおれは、いやになって
みんなのまえでなきそうになったから

グラウンドからにげだした。


はしって、はしって。

きょうしつにかくれた。

カーテンにくるまって
ひざをかかえてないた。

だれもいない
だれもいない

きょうしつ。

たのしそうなこえが
そこからでもきこえてきて

おれは、ないた。


そんなとき
うえからこえがきこえてきたんだ。

おんなのこの、かぐらのこえだった。

なんていったかわからなかった。
でも、おこってるような、こまってるようなこえだった。


きこえてないふりをして、むししてたら
カーテンをひっぺがされた。

おれは、ないてるかおをみられて
はずかしいかんじがした。

だからしたをむいてたら
うでをつかまれて、たたされて、ひっぱられた。


どこにいくの?ってきいたら
グラウンドにきまってるアルっていわれた。

いやだった。

でもいやじゃなかった。


おれのてをつかんでたその『て』が

パパとにてた、あったかさだったから。




グラウンドにもどったころ、ほかのみんなはいなくて

てつぼうのところにしんぱちがこまったような、わらったような
そんなかおをしながらまっていた。


おかえり、ないたの?って
きかれてかおをのぞかれたけど

ただいま、ないてないってへんじした。


かぐらはてつぼうにとびかかって
なんどもなんどもまえまわりをしてた。

ぎんちゃん、みてるアル!っていって
めがまわるんじゃないかってくらい、
なんどもなんどもまわってみせてくれた。

おれがなんで
まえまわりができないんだって
しってたんだろう、そうおもったけど

おれはきかなかった。

だって、ふたりもおれにきかなかったから。


しんぱちがいった。
ぼくもさいしょはできなかったんだって。
でもれんしゅうすれば、できるようになるよって。

いっしょにがんばろうって。


ふたりはきゅうしょくもたべずに
ひるやすみもあそばずに

いっしょにがんばってくれた。


あとで、さんにんでせんせいにおこられた。
なのにせんせいのかおはこわくなかった。
わらってるようなきがした。

みんながごじかんめのずこうをやってるとき
おれたちはせんせいがとっておいてくれたきゅうしょくをたべながら

ほうかごもれんしゅうしよっか、とかはなした。


おれは、うれしかった。
これがともだちなんだなっておもった。

なきそうになりながら、パンをかじってぎゅうにゅうをのんだ。


ふたりといっしょに
ほうかごもれんしゅうしたけど
なかなかできなくて、てがいたかった。

くらくなってきたから、きょうはもうかえろっかってなって。
あしたもいっしょにがんばろうっていってくれた。

ランドセルをしょったふたりのせなかにおれは
そのときやっと、


『ありがとう』

っていえた。

ふたりはふりむいてわらった。
ともだちだからねっていった。

なきそうになったけどがまんして、うんってこたえた。


いえにかえって、パパにはなした。

かなしかったこと、うれしかったこと、
あったかかったこと、やさしかったこと。

そしたらパパはすこしなきながら
よかったなあっていってわらって
おれのあたまを、ぐしゃぐしゃぽんぽんしてくれた。


それからおれとかぐらとしんぱちは
なかがいいさんにんってがっこうでゆうめいになったんだ。


おれのともだち。

だいじなともだちだ。





。。。






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