回想/土方



仕事が終わり、帰宅出来るというのにも関わらず溜め息をついた。
そんな些細なことが忘れられない程の大雨の夜だった。

予報を見ておいたから、傘は持っていた。
差したところで、土砂降りの雨ではどうしても濡れてしまう。
しかし無いよりはマシだろうと、鞄の中の書類を庇いながら家路を急いだ。

水溜りを踏む度、足に冷たさと不快感を感じる。
そんな時、近所の酒屋の横路地に小さな影が見えた。

何だろう、と思って数歩下がり目を凝らすと
ビールケースの上に座って震えている子どもがいた。

こんな時間に、何故?
疑問なんていくつもあったが、そいつの目を見て俺は。

連れ帰ろうと決めた。


普段よりも、かなり長い帰り道。
覚束無い足取りだったが、確実に歩む姿を見守った。

やがて、自宅へ着くと真っ先に風呂へ入れてやった。
ずっと震えっぱなしだった身体が、湯の温かさで落ち着いたらしく安心した。

名前を聞けば『さかた ぎんとき』と名乗った。
その時に書かせた漢字も見知らぬ字ではあったが、かろうじて解釈できた。
恐らく『坂田銀時』で間違いないだろう。

親はいないという。

何故いないのか、などと突然踏み入るような質問は控えたが
俺はどうしてか涙が止まらなくなった。

どれくらいぶりに泣いたんだろう。
映画を見て泣くことがあっても、人を目の前にして泣くことなど殆ど無い。

それも、こんなに幼い子どもの前で。

気付けば俺は、銀時を抱き締めていた。

そして心の奥で何度も謝った。

可哀想な子だなんて、もう二度と思わない。
誰にも思わせはしない。

こんな俺に何が出来るか分からない。

でもいつか、お前の目が。
少しでも幸せだと語ってくれたら、と。

ただ願った。





。。。






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