起床/朝食



『おい、起きろ』


昨夜はまともに着ていた寝巻きを見事に着崩している。
かと思えば、頭など枕とは正反対の位置だ。

なんて寝相が悪いんだろうか。

無意識に零れた溜め息が消えたところで、もう一度声を掛ける。


『起きろってのが分かんねェのか!また遅刻すんぞ!』

小さな背中をトントンと叩くと、唸り声を上げてむくりと起き上がった。

『…ねむい…』

目を開きもせず、再びごろんと寝転んでしまう。

『…朝飯抜きな』

低い声で呟くように言うと、まるで別人のように布団を撥ね退け飛び起きる。

『食べるっ、あさめしっ』

階段を降りていく背を、ぴょんぴょん跳ねるように追いかけていくと
着替えてから来い、と一喝されてしまった。

『着替え、着替え…』

何と無くだるい感じがして思うように動かない腕を一生懸命に上げ下げしながら
着替え終え、黒いランドセルを肩へ掛けると今度こそ朝飯だと階段を降りた。

『おはよー…』
『おー、おはよ。寝癖直せよ、あと食ったら歯磨きな』

いい匂いがすると思えば、フライパンの上でホットケーキが宙返りしていた。
その焼き加減に釘付けになりながらも、マグカップの中身を啜り飲む。

『三枚…』
『あン?そんなに食えるのか?』

皿の上に重ねられたそれから視線を逸らさずに、こくんと頷いた。
仕方ねェ、と言いながら、三枚目を積みバターを乗せるとシロップをかける。

『ほらよ』
『いただきます…』

夢中になってホットケーキを頬張るのを、コーヒーを啜りながら眺めた。
幸せそうなその姿に、安心に似た感情を心の奥で確かめる。

最後に程良く冷めたホットミルクを飲み干し、ごちそうさまと手を合わせた。
何か声を掛けようとしたが、洗面台へと向かってしまった。

『…綺麗に食ったこと』

ふ、と微かに笑い食器を片付け始めた。





。。。






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