キムチ的恋愛

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「…テ、レクラ?」

「そう、お嬢ちゃんには悪いんだけど…こっちも仕事なんだわ」



ある日の昼下がり、コーヒーゼリーを片手に話がベタ過ぎて面白くも何とも無いけど何故か毎回見てしまう韓国ドラマの魔法にかかっている最中、インターホンが大事な告白シーンにもろ被りで鳴り響いた。あぁ、もうちょっとでサランヘヨーでガシッ、ギュッ!って展開だったのに。また隣のおばさんか?(うちのお父さんを気に入ってるらしくて、煮物を持って来たり果物を持って来たりと媚を売ってくるの)

あたしは重い腰をあげてコーヒーゼリーを手放さないまま玄関に向かった。どうせおばさんだからとホットパンツにキャミソールのままでドアをガチャリ。



(あぁ、せめてブラジャー付けておけば良かった。)



ドアの向こうに居たのはドレッド頭で派手めスーツをお洒落に着こなすお兄さんと、金髪にバーテン服でグラサンのお兄さんで、あたしは靴箱の上にコーヒーゼリーを置いてから、乱れているであろう髪の毛を素早く手櫛で直した。しかし明らかにあたしがお世話になることは一生で一度も無いだろうという相手の訪問。あたしは意を決して訪ねてみた。そしたら冒頭に至る訳である。



「つ、つまりは…うちの父がテレクラにハマっただけでも厄介なのにおまけにお金を払ってないという事でしょうか」

「そうそう」

「…で、おいくら何でしょうか?」

「ぴったり16万」



16万っ?!

ヤバい、完全にあたし売られてしまうパターンじゃないか!そうだ、今まで19年間純潔を通して来た(今まで何人か彼氏はいたけれど、キスだってさせてない)あたしの清い身体はコーヒーゼリーにミルクが染みていくように丸々太った芋虫みたいなオヤジに汚されてしまうんだ。汚くて短くて早漏なペニスに何回もあたしの可愛いまんこが突かれて、コンドームという隔たりの無いまま臭くてドロッとした精液が放たれるんだ。ピル飲んでおけ、売り物にならなくなる…そんなことをいかつい兄ちゃんに言われるんだ。きれいはきたない、きたないはきれい…そんな言葉をどっかで聞いたことあるけど、そんなの知らん!あたしの幸せは父さんが何処の馬の骨かも分からない女と快楽の為に使った16万で全て奪われてしまった!まだまだ大学生活楽しみたかったのに。いずれの結婚式は森の小さな教会で、てんとう虫とサンバ踊りながらやる予定だったのに。あたしの幸せを返せ!最近ずっと帰って来なかったのはこのせいだったのか!

…にしても、この金髪バーテングラサンのお兄さん素敵だな。もうどうせ奪われる純潔ならこのお兄さんに奪われたい。腰細いけど何となく力強そうだし、でもグラサンの向こうの目は優しそう。あっ、目が合ってしまった!どうしよう、初めてセックスしたいと思ったかも。このお兄さんなら良い!ドキドキする!もう濡れてるのかも、あたし!



「分かりました、父の代わりに売りでも臓器売買でも何でもやります。その前に、ただその前に一度だけそこのお兄さんとセックスさせて下さい。あたしまだ純潔なんです。キスだってしたことない。それなのに余りにも不幸だとは思いませんか?あ、あたし病気は持ってません。それに異常性癖も持ち合わせてはいないです。金髪バーテングラサンのお兄さんが初めてなんです、こんなにセックスしたいと思ったの。だから、」

「……あ、いや、嬢ちゃんの父ちゃんに連絡が付きゃあ良いんだけどよ?」

「いや、トムさん。良いっすよ、16万はこいつと…おい、名前は?」

「名無しです、グラサン」

「グラサンじゃねぇよ、俺は平和島静雄だ。っつーことでトムさん、16万は名無しと俺で返すってことにして下さい。父親見つけたらその時に借り返してもらうんで」

「王子!しずくん王子!」

「え、…はっ?ちょっ静雄、どうした?」

「しずくん…って俺のことか?お前、照れるだろ」

「照れ雄だねっ!可愛い」

「名無しも、かっ可愛いぜ。あ…でも俺、あんま経験ねぇから下手だと思うんだけどよ。それに女の扱いだって慣れてねぇし…」

「良いの、しずくんが傍に居てくれたら何もいらない。サランヘヨ!」



ガシッ ギュッ



「……後の一件は俺が周るから、静雄は名無しちゃんと今後のこと話し合ってていいから、」

「っす。ありがとうございます」

「ドレッド様!」



つまりはしずくんはあたしの運命の人、白馬の王子様なのでしたー。とりあえず、父さん帰って来たら感謝しないと!きっちりお金は返してもらうけど!














しずくんも実は一目惚れしてたというー


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