もう死んでるんだよ

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※君は騙されて、僕は騙されて、の続編。
※裏。










「ん、ぁッ、静雄、待っ…」

「待たねぇよッ…」



露西亜寿司を二人で手を繋いで帰って来た。懐かしい静雄のアパートは相変わらずのヤニ臭さと汗臭さで満ちていて、仄かに静雄の香水の匂いが香る。懐かしい。けれど静雄はそんな隙なんて与えないとばかりにあたしを壁に押し付けて食らい付くようなキスをした。人工呼吸と似たキスだけれど、絡み付く舌は獰猛で。同じように静雄の視線も獰猛に暗闇でギラギラ光っていた。それなのにずっと寂しそうで、哀しそうで、焦っていて。愛しい気持ちが溢れた。だって仕方ないじゃない、こんなに…近くにいるんだもの。



「名無しっ、愛してる…ッ、名無しッッ!」

「…ぁ、あッ!しず、…お、んっ…、あたしも…ッ!」



あれよあれよと言う間に脱がされていくあたしのスーツと静雄のバーテン服。僅かな廊下に点々と捨てられていく服は、禁欲を保つ鎧の様。静雄のペラペラな敷き布団に二人転がった瞬間、押し寄せる背徳感であたしは茂みの奧をまた濡らした。

静雄は慣らしてくれる余裕も無いのか、露になった痛いくらいに腫れたペニスをあたしに突き入れる。ぐちゅっ、そんな汚い水音が動く度に部屋に響いた。あたしの膣はやっと出逢えた愛しいペニスに歓喜し、そこを涙で溢れさせ、それから連続する快感に震える。膣があたしに言う。「しずくんのおちんちんは優しいね」あたしは答える。「うん、愛しいね」静雄にしがみ付いて鳴くと、膣もあたしも、愛しさでいっぱいになった。

今までにしたどんなセックスより、ずっとずっと愛で溢れていた。



「…しずお、ァ…ッ、もっと、近くに……居てっ…」

「!………居るだろッ、名無し…ずっと傍に居てやるから、」

「違、うよっ……ンッああ、っ!」



傍に居るだけじゃ足りないんだよ。静雄が、ずっと近くに居て欲しいの。静雄が考えてるより、ずっとあたしは遠いよ。怖いの。でもこんな話、こんなに愛に溢れたセックスの最中にする話じゃない。あたしは溢れだす涙を、止められないままに必死にしがみ付いた。静雄の広い背中に爪を立てて、静雄の首筋に瞼を押し付けて。静雄のくれる快感の波間を、必死に泳いだ。



「あッ、…出るっ…名無し、ッ!」



熱い息を孕んだあたしの名前が、耳元で囁かれるとあたしの膣は堪らないと馬鹿正直に震えて、それから大きく跳ねた。その断続的な痙攣に合わせて静雄のペニスも言葉通りに精液を吐き出して、数回打ち付けられると…あたしの中でまた一層増した水音で鳴いた。静雄で満たされている筈なのに、やっぱり寂しい気持ちが残った。やり直しなんて、利かないのかな。そう思うと、自然とあたしは膣と同じように大粒の涙を溢して。



「わ…、悪ぃ。泣くほど嫌だったのか?…俺、我慢出来なくて、だって名無しが、お前が誘ってるように思っちまって…。やっぱり中に出したのも、怒ってるよな?本当に悪かった、だから、名無し、」



あぁ、これじゃあの時と同じじゃない。あたしはいつも言葉が足りないんだから。静雄、ごめんね、違うの……そう、息を吸って、伝えないと。



「静雄、違うの。愛してるの。化け物なんて一度だって思った事無い。静雄であたしの中がいっぱいなのも嬉しい。エッチだって、嬉しい。違うの。話したいの。足りなかった分を、」

「!」

「…あの時、言えば良かったんだよね。子供みたいに拗ねて、静雄を困らせて馬鹿みたいだって…ずっと後悔してた」

「名無しより、俺の方がずっと餓鬼だろっ!…俺だって、すげー考えて、」

「静雄のこと、実は付き合う前からちゃんと知ってたの。力の事、噂の事、それから事実も。でも話してくれるまで待った。そりゃあ最初は静雄が、隠してくれる度に…愛しされてるって思ったよ。でも、段々と分からなくなったの」

「俺、お前に嫌われたくなくて…必死に――」

「だから、足りなかった分を話したい。足りない分を話したいよ。死んじゃうって言ったでしょう?…静雄がいないとダメなんだよ」





♀♂





馬鹿名無しに、馬鹿な俺。名無しは壁に出来た凹みを見つめて、優しく凹みを撫でた。疲れきってだらりとした身体を、ゆっくり後ろから抱き締めてやる。名無しの匂いでいっぱいになって、また欲情して、名無しのアソコに手を伸ばした。俺が吐き出して溢れた精子と、名無しのあれ程までに溢れていた汁はもうすっかり渇いていて。俺達が長い間、沢山の事を話し込んでいたのがよく分かった。

名無しを失って、とっくに死んでたのは俺の方だ。名無しを目の前に、こんなにも生に飢えてやがる。名無しという生に、必死に縋り付くゾンビだ。



「静雄、」

「…何だよ」

「運命の出逢いじゃないと良いよね」

「は?」

「あたし達は、運命なんかじゃないと良いなって思ったの」

「……?」

「運命じゃないのに、愛し合って…ずっと傍にいるなんて、凄いじゃん?」

「あー…おう。…………やる気スイッチ入った」

「え?!」



話を聞こうと止まっていた手は名無しの顔の横について、足をもう片方の手で開かせれば元気よく勃起したちんこをゆっくりと名無しの乾いたソコに入れていく。ゆるゆると奥に辿り着いて、それからまた入り口まで戻って。名無しの乾いたアソコは俺のちんこを奥に迎え入れる度に可愛らしくうねって、嬉しそうに涎を再び垂らした。

夜がこのまま明けなければ良いと、ちょっとだけポエマーになる。



「…すげー臭い事言って良いか?」

「ん、…何……?」



何度目の絶頂の後か、薄いカーテンの向こうが白んで来た頃にやっと俺は興奮を抑えることが出来るようになって、また名無しを腕に閉じ込め…睡魔の手招きを感じていた。

名無しが眠そうな返事をしたので、眠ってしまう前にと耳元へ伝えたかった言葉を紡いだ。



「…俺も、名無しがいれば運命じゃなくていい」



ポストから投げ入れられた新聞が、玄関でミッドナイトブルーとボロスニーカーの上に落ちた。












続編リクエストに応えてみました。
スランプやべぇwww


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