現実問題として

(10/14)






トリップしたらキャラに逢えて結ばれる。お決まりなドリーム。あたしはそんな事あり得ないと思った。

現時点であたしは上下スウェットに裸足で、おまけに眉毛が限り無く、無い。そんでもって幾度か通って見慣れた、60階通りに佇んでいた。

足から伝わるのは冷たいよりも痛い…おいおい、視線も痛いよ。キャッチのお兄さんがびっくりしてるよ。これは夢だ。ドリームだ。だからあり得ない。ベッドで寝ていたら池袋にいたなんて夢遊病もいいとこだ。第一に見慣れた光景はいつもの池袋で、これでキャラが現れて…なんて生易しい感じじゃ明らかに無―――…



「分かった、じゃあお前達は帰れ。お疲れ」



救世主ーーー!!もう大好き、将軍!!大好き、紀田正臣!!

あからさまにチャラチャラのチーマーな彼を発見したのは本当に奇跡としか言いようが無い。というか本当に、これがトリップってやつか。出来るんだ、人体の神秘だな。でも原作者の世界というよりは、きっとあたしの世界に…じゃなくて。とりあえず助けて!キダマサオミ!!



「あの!」

「!……は、はい?」

「………お願いします、折原臨也に連絡取って貰えませんか」

「…臨也さんに?っつーか、お姉さんどうした?裸足だし、」

「とりあえず寒くて死んじゃうから、折原に、うは!」



いきなりキダマサオミがあたしをおんぶしようとする。いや、正確にはしてくれた。大好き。もうキダマサオミ大好き。…じゃなくて、あたしは折原に連絡取って欲しかったんですよ。ドリームでトリップ、あたしがもししちゃった時はまず何とかして折原に連絡を取る。別世界の人間なんて面白過ぎる話を嘘だとか思いながらとりあえずは聞いてくれて、あわよくば助けてくれるかも知れない。だって他の人は、声かけた時点で不審者扱いでしょうよ。

でもキダマサオミは違った。



「お姉さんのナンパ、新鮮過ぎて面白かったから…この紀田正臣が温かいお茶をご馳走しよう!臨也さんに連絡はそれから」



大好き、もう結婚して!と言い掛けた時にたどり着いたのは、露西亜寿司。サイモンが気を利かせて奥の座敷に案内してくれた。座敷にあたしを下ろして机の反対側に座るキダマサオミ。暖かい店内と出された温かいお茶に身体が温まった。



「で、お姉さんの名前は?」

「名無し…です」

「名無しさん、か。名無しさんは臨也さんとどういう関係?」

「…いや、関係は無いんだけど、

「臨也、だと…?」

……っ…うはあああああ!」



パリーンと何かが割れる音がした時に聞こえてきたのは聞き覚えのある低い声。俯いていた顔を上げると金髪にバーテン服のデカい男がカウンター席から振り返って凄い睨み付けていた。いやあああああ!あたし眉毛が無いの!アイプチしてないから二重ぱっちりじゃないの!スウェットだから可愛いワンピじゃないの!だからやめて、あたしを見ないで平和島静雄!お願いしますお願いしますお願いします。



「し、静雄さん。いらしてたんですか」

「…今、来たんだよ。それより紀田…だったな、この女とノミ蟲の話してただろ?あ゙?」

「いや、その…名無しさんがスゲー困ってる感じで、しかも臨也さんに連絡してくれって言うから心配になって、話聞いてて…」

「……おい、名無しとか言う女」

「…ゔっはい、はい!見ないで下さい。今可愛くない状態だから見ないで下さい。まるっと話すから見ないで!」

「!?」

「……何でフルメイクにおしゃれ魔女状態でトリップしなかったの?あたしのドリームなくせに!…あたしの計画では折原に助けてもらってから可愛く着飾って、大好きな貴方に会いに行く予定だったのに!あぁ、でも怖い。実際に女とか呼ばれると怖い。でもカッコいい。静雄さんカッコいい、大好き。でも見ないで、今眉毛が無いの!」



静雄さんもキダマサオミもトムさんも、びっくりしていた。言い過ぎた。まずトリップしたことをきちんと話すべきなのに、カッコいいとか素直過ぎるよ私の口!…というより、皆を見れない。



「…名無し、」

「はい、」

「……お前、困ってるならノミ蟲野郎じゃなくて俺が助けてやる。寿司、食べるか?」



ズイッといきなり目の前に出されたのは艶々ぷりぷりなお寿司達。正直、マグロとイクラと玉子しか食べられない。それにその皿を頼んでくれたのはキダマサオミだし。けれどあたしはびっくりし過ぎて何も喋る事が出来ないまま、平和島静雄さんを見つめていた。真っ正面から見るとグラサンの向こうに優しい眼差しがあると気付く。眉毛も無くてアイプチもしてない酷いあたしの顔を真っ正面から見つめながら、静雄さんはネギトロ巻きを1つ掴んであたしに食べさせた。ネギトロ巻きをもぐもぐと呆然としながらも食べれば、静雄さんはあたしをギュッといきなり抱き締める。それから膝の上に乗せられたまま、たまに寿司を口に勧められた。



「あ、あの…」

「ん?どうした、名無し。寿司か、甘いの食べるか?」

「静雄さん、いきなりで名無しさんはびっくりしてるんだと思いますよ。助けるって…本気ですか?」

「名無しは、俺の運命の天使だ。眉毛なんか放っておきゃあ生えてくんだろ、それに何もしなくてもこんなに可愛いんだぜ?助ける、つかもう離さないな。逃がさない。名無しはこれからずっと俺のもんだ」

「「わお」」
















私の考えるトリップは現実的です。

夢だから甘くしましたが、


フラフラ→警察に捕まる→折原の名前を出して助けを乞う→きっと異世界人なんて面白いって引き取ってくれる…はず→情報と引き換えに生活を保証してもらう→静雄をストーカーする→静雄に嫌われる→うまくいかないなあ→どうしようか→片想い続行→仕事を頑張って見つける→普通に暮らす→片想い続行→


甘くない




戻る