5の続き↓




「まだ痛ぇか…?」

「…痛い」



大きな絆創膏の上から更に包帯で巻かれた手足を、ワンピース状態なシャツと長ズボン状態なハーフパンツの下からだらりと投げ出してぼんやり。不意の声に視線をちょっと下げてみれば、治療を終えて心配そうにあたしの顔を下から見上げる平和島静雄がいた。あたしはゆっくり手を伸ばして、根元が黒くなってきているきしきしの金髪を撫でた。



「何だよ」

「絆創膏とか新しい下着とか、色々気になって」

「あぁ、手前が風呂入ってる時買ってきた」

「妖精の魔法じゃなかったか」

「は?」

「気にすんな、平和島静雄」

「名無し、手前は毎度毎度ノミ蟲並みにうぜぇ」

「褒めてる?」

「殺すぞ、こら」



平和島静雄がくしゃくしゃと自分の頭を撫でる手をやんわり払って、あたしを抱き上げてベッドに運んだ。嫌いならこんな事しなきゃ良いのにって思ったけど、酔ってる彼は明日になればきっと何も覚えてないだろうし、今だけは良いだなんて自分の理性は少し揺らいだ。



「寝ろ。俺はソファーに居るから何かあったら呼べ」

「…置いてきぼり?」



我ながら女をフル活用したズルい誘いだと思う。離れようとした身体を腕を弱々しく掴んで引き止めて、飛びっきり儚げに甘い声で問いかけるなんて。

平和島静雄はあたしを真っ直ぐ見つめて小さく笑った。何だか今にも壊れてしまいそうなくらいに脆い微笑は、あたしを責めている気がして、包み込んでくれている気がした。何となく…そう、意味なんて無いけれど、彼の柔らかく温かい唇が恐る恐るあたしの瞼に触れた瞬間に、涙が溢れた。止まらないそれを、熱くて酒臭い舌がゆっくり舐め取る。視線が合えばどちらともなくキスをした。泣きたくなんかないのに。絶望こそが愛だ、父さんはそう言ってた。なら、心臓がチクチクと痛むこの気持ちは何だろう。助けてと叫ぶ、あたしの中の何かにあたしは蓋をした。



「…は、ぁ……くっ、」

「……んッあ、あ、あっ」



ぐちゅぐちゅと卑猥な音が部屋に響いて、ぎしぎしとパイプベッドは軋んで、荒い息と嬌声と共に、あたし達は動物みたいなセックスをする。顔の横で掴まれている両腕は無意識に力を込めてしまっている平和島静雄のせいで、痛くて堪らない。きっと赤くなったり紫色になっちゃうだろうな。突き上げる腰は細いくせに猛々しくて。興奮したペニスが壁を擦り、中を荒らす度に圧迫感や快感に…涙がまた溢れた。

時折聞こえるのは、妖精の名前。

彼は無意識を武器にあたしをめちゃめちゃに壊していた。今日も見かけた、あの不自然にアスファルトに突き刺さり曲がっていた一方通行。横には駐車禁止もあったか。そんなのとあたしは変わらない。あぁ、あたし絶望的な気分。



「これは、愛。歪んでなんかいない。真っ直ぐで小説に書かれるような、純愛。だってこんなにも……」



月明かりが差し込む。今日は三日月プラスちょっとくらいの微妙な月だけど、光は充分に疲れて眠る怪物の寝姿を照らし、あたしの手首や首筋に痣が残る汚い身体も照らした。怪物の前髪を撫で分けては額に小さくキスを送って、あたしはベッドから出た。

洗い干されていた服は薄かったのもあり乾いていて、それを着て、彼に借りた服は洗濯機に投げ入れてナイトモードで洗って。髪の毛一本まであたしの痕跡を消して帰る。翌朝、怪物は二日酔いに悩まされるだろう。だからあたしは消して行くよ、何も覚えていないでしょう?何も無かったの。

新しいダサい柄の下着が濡れる。彼がそこに確かにいた。















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