「やぁ、名無しちゃん。随分とまた面白い事してるらしいじゃないか。シズちゃん、絡みでさ」

「良いから。お金は出すから早くスパイスになりそうなのを教えて」

「肉ってさ、よくコーラとかビールで揉むと柔らかくなるとか言うけど…シズちゃんは柔らかくなんかならないと思うなぁ。あ、君は早く腐らせ」

「喧しい、情報屋。やっぱりあんたに聞いたあたしが馬鹿だった。」

「いやいや、待ちなよ。これでも応援してるんだ。愛は絶望、だったね。それには俺も同感するよ?愛してる人間が俺を愛して、絶望させようと策略を巡らせて足掻くなんて素晴らしいじゃないか!」

「…平和島静雄でも?」

「意地悪な事聞くなぁ。シズちゃんだって、最初から嫌いだった訳じゃないよ。今は消えて欲しいけどね」



とある昼下がりのとあるビル二階、池袋の街を歩く人達が見渡せるカフェにあたしは居た。クリームメロンソーダのソフトクリームをぐちゃぐちゃとスプーンで突いては蛍光グリーンな液体が泡立った。

べらべらと喋る情報屋と一緒に。

彼も、池袋を中心に蔓延る“関わってはいけない人物”の一人だ。そんな男と何故仲良くアフタヌーンティーを楽しんでいるのかといえば、それは彼が平和島静雄の宿敵だからである。

高校時代からの犬猿関係らしいが、平和島静雄に心底嫌われて、平和島静雄に怒りを剥き出しにされて、平和島静雄に暴力を振るってもらえるなんて、あたしからしたら羨ましくて堪らない。

あたしは被虐嗜好、マゾヒストな訳じゃないけれど…平和島静雄に関しては全部が幸福である。



「情報屋、あたしは平和島静雄を愛してる。だから平和島静雄が苦しんで、絶望してる姿が見たいんだ。手を繋いで、口付けを交わして、セックスに明け暮れる気は無い。そんなのは、」

「愛さ。それも愛だよ。だから俺は今すぐトイレに君と2人で駆け込んでセックスする事も出来る」

「…あたしが絶望的になるから、それもそれで愛か。」



赤い目があたしを見つめている。

情報屋は、多分あたしと似てる。寂しいとかが分からないんだろうけど。普通なら同族は嫌悪する。でも彼を嫌いにはなれなかった。まぁ、特に関心が無いのが正しい。



「ソフトクリームをぐちゃぐちゃに溶かしたいなら、支えてる氷を砕いてソーダを飲んでしまえば良い。そしたら君は甘い甘いソフトクリームのぐちゃぐちゃな姿を眺めながら楽しく啄めるよ」



ひらりと三枚をテーブルの端に置いてあたしは店を出た。彼にもらったUSBの中にはきっと素晴らしい絶妙な味を出してくれるスパイスが詰まっている筈だ。

あたしは今から楽しみで仕方なかった。

口の中に広がる甘いソフトクリームの味が、平和島静雄の味な気がした。

怪物は妖精の愛を受けて、きっとゆっくり柔らかく柔らかく…美味しいお肉に仕上がっているに違いない。













折原嫌い



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