メロンソーダの毒々しい緑に沈んでいくバニラアイスをちまちまとスプーンで掬って食べていく。ぐちゃぐちゃと混ぜるには、まだ早い気がするから。どのくらいまでだったら、混ぜて良かったんだったっけ。

いつの時か、あたしは今と同じように黒のファーコートがトレードマークの彼と過ごしていた。あの時と違うのは、穏やか且つ不安に心が揺れているところ。変わらないのは、静雄への気持ち。あたしは目の前にある大好物へ、向いていた。



「…大方は、運び屋から聞いたよ」

「……早く帰りたい」



柔らかい陽の光が右側の大きな窓ガラスから燦々と注いでいて、あたしはその心地好さに吐き気がした。何を聞いたと言うのか。聞いた、だと?たかが首の無い妖精に何が分かる。あたしは今までの穏やかな気持ちを、その一言でゆらりと憤怒へ変えた。早く帰って洗濯物を片付けなければいけないのに。今日の晩ご飯は、ヘルシーに豆腐ハンバーグにする予定だからタネをそろそろ作りたいのに。どうしてあたしはこいつに連れられてこんな所まで来てしまったのだろう。



「名無し、新宿にシズちゃんは滅多に来ない。それに仕事は夜までなんだから、心配しなくていい」

「だから?…早く帰ってご飯の支度をしないといけないんだ」

「…じゃあ一つだけ聞かせてよ。家事業が忙しいから、家から一歩も出ないでいるのかい?」



あたしは、顔をゆっくり情報屋に向ける。彼はこんな風に悲しそうな雰囲気をしていただろうか。それとも心配していると言いたげなそれは、完全に演技なのだろうか。グラスの中の氷が、からんと音を立てて沈んだのが聞こえた。アイスクリームがじわじわと隙間を縫うように下へ下へと染み込んで行くんだと思う。もう、何もしなくたってぐちゃぐちゃだ。



「…幸い、気付いてるのは俺と運び屋と新羅だけだ。でも時間の問題じゃないか

「五月蝿いっ!!!」

「っ、」

「あたしと静雄に在るのは確かな契りだっ!血だっ!それはお前にも分からない、崇高な愛だっ!」



周りのびっくりしている反応も顧みずに情報屋に怒鳴り散らした。あたしは酷く滑稽な存在になってしまって、きっと世界はぎゅっと狭くなったんだと、感じる。情報屋は立ち上がって、小さく言葉を囁いてからあたしの手を引いて店を出た。柔らかい陽の光が、痛い。情報屋の冷たい手が、痛い。あたし、傷いんだな。今…物凄くあちこちが傷いよ。



「…何もしなくても、ぐちゃぐちゃになるなんて。名無しは色々と天才かも知れないね」

「臨、…也……」

「ん?」

「…大嫌いだ、早く死ねっ……」

「…ッハハ。ダーメ、二人ぼっち計画はまだ進行中なんだからさ」



挙げた手に誘われたのか、停まったタクシーに二人で乗り込んだ。あたしは、男と車に乗り込むと絶対泣き出してしまうクセがあるらしい。厄介極まりないな。あたしは臨也のムカつくほど大嫌いで、それでいて淋しそうな雰囲気にずきずきと傷む腕を伸ばして。静雄とは全然違うくっさい首と肩の間に顔を埋めて、静かに涙を溢した。

静雄に逢いたい。

優しくて、あったかい静雄に、大丈夫だよって言われたいな。



「どうしたら、痛くない愛が得られるんだろうね」

「人を、愛せばいいよ」

「またそれ?…嘘吐きだね、臨也は。独りぼっちなくせに」

「名無しも嘘吐きじゃないか」



車に揺られて、しばらくすると次は大きなエンジン音とアナウンスを聞いた。臨也はずっとあたしの左手を掴んだままでいて、あたしはずっと周りの音を聞いて。長い間を眠って過ごすことにした。


















どうしたらいいと思います?



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