「…ヤりたい」

「おい、静雄。心の声が駄々漏れだぞ」

「!」



名無しとのほんわか同棲生活が始まってから二週間、俺はよく我慢したと言えると思う。毎日毎日可愛くて話しにならない名無しと、おはようからおやすみまでを共に過ごして、加えて風呂上がりや寝起き、無防備な寝顔だ。男が疼かない訳が無い。けど俺は耐えた。何となく、名無しが疲れてるように見えたからだ。可愛くて愛しい名無しを無理はさせたくない。だから、

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!

我慢出来ねぇ!もう限界だ!平和島静雄は本来我慢強くねぇんだよ!名無しとヤりてぇ。名無しを鳴かせたい。名無しの……やべぇ、仕事中なのに想像したから勃ちそうだ。いけない、いけない。つか、独り言でヤりたいって言うなんて俺は末期なんじゃないだろうか。トムさんもヴァローナもどん引きしてる。これは本当にヤバい。



「名無しちゃんに聞いてみれば良いべ」

「……何て聞けばいいんすか」

「素直に?」

「ヤりたいなんて言ったら破局もんですよ、トムさん」

「でも名無しちゃんは大丈夫だべ、肝っ玉強いし」



名無しに正直になんか言えないだろうと考えながら必死になけなしの理性を掻き集めて、俺の半身はポンッと肩を叩かれた瞬間、名無しに正直に言ってみる→それからヤるっつーどうしようもない判断を下した。本当に正直過ぎるくらいにめらめらっと自分の中で欲望が沸き上がり、名無しとの最初の夜を思い出した。とりあえず全力で愛してることを、愛してるからヤりたいってことを伝えよう。そしたらきっと名無しも分かってくれる。あいつは本当に良い女だから。



「名無し、ただいま」

「おかえりーいいいいい」

「何だよ、…どうした?」

「じゃーん、静雄になってみたぞ。凄い?」



さくっと仕事を終わらせて帰って来たのはマイスイートホーム。2Kの小さいアパートのヤニ臭い壁の一室が俺らの愛の巣。やべぇ、思考が飛んできやがった。でも良い、ヤりたい。

帰って来た俺を出迎えたのは小さい俺だった。いや、ファンタジーじゃなくて。正確には名無しが、がっつり俺になりきっていた。何処から探して来たのか、又は幽に頼んだのかぴったりのバーテン服。くすんだ金髪の短髪なウィッグは俺の髪型にセット。手にはタバコらしき棒。グラサンは色がちょっと違ってはいるが形は限りなく同じで。おまけに可愛い顔がメイクで凛々しい男顔になっていた。俺になりきるなんてレベルじゃねぇ、これは、なんだって言うんだっけか、うん、男装?つか名無し、何だその踵デカいブーツは。ちょっと目線が近けぇ。



「何してんだよ」

「可愛いかなって」

「顔が怖い。目線近けぇから不自然」

「酷いっ!」



名無しをガシッと捕まえてからメイク落としのコットンでスルスルと凛々しいメイクを落とせば素っぴんの名無しの可愛い顔が現れる。何でまたこんなことをしたんだと考えてもみたが、さっぱり分からない。俺は続けてカツラを脱がせて髪を手櫛でぐしゃぐしゃと直してやってから、馬鹿みたいにデカい踵のブーツを脱がせた。バーテン服を着ただけの、ただの名無しはムスッと怒ったような顔をしながら俺を終始睨み付けていた。



「馬鹿、」

「あ゙?」



短くそう呟いたかと思うと、抱き上げた途端に名無しは顔をくしゃっと歪めて、子供みたいにポロポロ泣き出してしまって。何で泣いてんだよ。俺が全部取ったからか?あ゙ー…もうどうすりゃ良いんだ。取り敢えず泣くなよ、つか…此処で泣かしたら今日は確実にヤりてぇなんて言えねぇよ。何だよ、相変わらず訳分かんねぇ女だな名無しは。いや、そこも…可愛いけどよ。



「なっ、泣くなよっ」

「………静雄の馬鹿!」

「!」

「……お揃いは良いって、雑誌で読んだんだ。でも何が一緒だと嬉しいか分からないから、頑張って、でも静雄は喜ばなくて、」

「ちょっと待て、俺と…ペアルック、したかったのか?」

「…違う。バーテン服もグラサンも金髪もダサい」

「じゃあ何なんだよ…」

「………静雄、付き合ってからずっと、あたしとセックスしてくれないじゃん!…ムラムラしないのかと思ってて、別れるって言われたらどうしようって、だからわざとエッチな格好で寝たりしたのに…馬鹿!静雄のばかあああああ!!」



そんなのってアリなのか?

















色んな静雄が浮かんでしまって頭がパーン

うちの静雄はダメ男です

続きます



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